ギリシャの定番ムサカのレシピ
焼いたなすの層・スパイスを効かせたひき肉の層・濃厚なベシャメルソースの三層を重ねてオーブンでじっくりと焼き上げる、アテネをはじめギリシャ全土の家庭とレストランが誇る伝統料理。シナモンとオールスパイスが香る中東由来のスパイス使いを、歴史とともに紹介します。
材料
- 【なす層】
- なす(大きめ) 4本
- オリーブオイル 大さじ4
- 塩 適量
- 【ひき肉のトマトソース】
- 牛ひき肉(または羊ひき肉) 500g
- 玉ねぎ 2個
- ニンニク 4片
- カットトマト缶 400g
- トマトペースト 大さじ2
- シナモンパウダー 小さじ1
- オールスパイスパウダー 小さじ1/2
- ナツメグパウダー ひとつまみ
- ベイリーフ 2枚
- 砂糖 小さじ1
- 塩 小さじ1
- 黒こしょう 適量
- オリーブオイル 大さじ3
- 【ベシャメルソース】
- バター 60g
- 薄力粉 60g
- 牛乳 500ml
- 卵黄 2個
- パルメザンチーズ(またはケファロティリチーズ) 50g+仕上げ用適量
- ナツメグパウダー ひとつまみ
- 塩 小さじ1/2
- 黒こしょう 適量
- パセリまたはバジル 適量(仕上げ)
- ホリャティキサラダ・ピタブレッド 各適量(添え物)
ムサカ(Moussaka)はギリシャを代表するオーブン料理で、塩をふってオリーブオイルで焼いたなすの層・シナモン・オールスパイス・ナツメグで香りをつけた牛または羊のひき肉とトマトソースの層・小麦粉とバターで作ったベシャメルソースにパルメザンチーズと卵黄を加えて濃厚に仕上げた層の三層を耐熱皿に順に重ねてオーブンでじっくりと焼き上げることで表面は美しい黄金色に焼き固まり内側はそれぞれの層が独自の食感と旨みを保ちながら全体として豊かなコクのある一体感に仕上がる、アテネをはじめギリシャ全土のタベルナ(大衆食堂)・レストラン・家庭の食卓で深く愛されるギリシャ料理の象徴的な一品です。ムサカ最大の個性はシナモン・オールスパイス・ナツメグというスイーツにも使われるウォームスパイスをひき肉料理に大胆に加えるという中東料理文化由来の発想にあり、このスパイスの使い方が生み出す甘みと旨みの複雑な重なりはオリーブオイルの香りとなすの旨みと溶け合うことでギリシャ料理に独特の奥行きを与えています。ムサカの決め手はなすに塩をふって余分な水分を抜いてからオリーブオイルで丁寧に焼いてとろりとやわらかくしておくことで焼き上がり後に各層が分離せずに美しく仕上がることと、ベシャメルソースに卵黄とパルメザンチーズを加えることで通常のベシャメルより濃厚でしっかりと焼き固まる層を作ることであり、この二つが揃って初めてアテネのタベルナや家庭で食べるムサカの贅沢な食感と深みが生まれます。ギリシャではムサカは「前日に作って翌日温め直すほうが美味しい」という信念が家庭に広く共有されており、日曜日に大きな耐熱皿でまとめて作り置きして平日に少しずつ食べるスタイルはギリシャの家庭料理文化の根幹をなす習慣のひとつとなっています。
ムサカの作り方
◎なすを下処理して焼く
なす4本(大きめ)を1cm厚さの輪切りにし、両面に塩をふって30分置く。出てきた水気をキッチンペーパーで丁寧に拭き取る。天板にオリーブオイルをたっぷりとぬり、なすを並べてさらに表面にもオリーブオイルを薄く塗る。200度に予熱したオーブンで片面15〜20分ずつ、両面がやわらかく軽く色がつくまで焼く(またはフライパンにオリーブオイル大さじ2を熱してなすを両面焼く)。(なすに塩をふって水分を抜く工程は余分な水気を取り除いて焼いたときに油を吸いすぎることを防ぐとともに、苦みを取り除く効果がある。オーブンで焼くとフライパンより少ない油で均一に仕上がる。なすは完全にやわらかくなるまで焼き切ること。半生のまま耐熱皿に重ねると焼き上がり後になすから水分が出て全体が水っぽくなる)
◎ひき肉のトマトソースを作る
玉ねぎ2個をみじん切りにして、大きめのフライパンにオリーブオイル大さじ3を熱して中火で10〜12分、しんなりしてきつね色になるまで炒める。ニンニク4片(みじん切り)を加えてさらに2分炒める。牛ひき肉(または羊ひき肉)500gを加えて木べらでほぐしながら中火で7〜8分、全体に火が通るまで炒める。カットトマト缶400g・トマトペースト大さじ2・シナモンパウダー小さじ1・オールスパイスパウダー小さじ1/2・ナツメグパウダーひとつまみ・ベイリーフ2枚・砂糖小さじ1・塩小さじ1・黒こしょうを加えてよく混ぜ、弱火で20〜25分、ソースの水分がほぼ飛んでひき肉がしっとりとまとまった状態になるまで煮詰める。(ソースの水分をしっかりと飛ばすことが最重要工程。水気が多いままだと耐熱皿の中でソースが広がって層が崩れる。ソースを傾けたときに水気がほとんど出てこない状態が目安。シナモンはムサカに欠かせないスパイスで、量を減らすとギリシャのムサカらしさが薄れる。ベイリーフは盛り付け前に取り除くこと)
◎ベシャメルソースを作る
小鍋にバター60gを弱火で溶かし、薄力粉60gを一度に加えて木べらで絶えずかき混ぜながら1〜2分、粉の生っぽい香りが消えるまで炒める。牛乳500mlを少しずつ加えながらホイッパーで素早く混ぜ、ダマができないように注意しながら中火でとろみがつくまで5〜7分加熱する。火を止めてナツメグパウダーひとつまみ・塩小さじ1/2・黒こしょうを加え、粗熱が取れたら卵黄2個を加えてよく混ぜ込み、パルメザンチーズ(またはケファロティリチーズ)50gを加えて混ぜる。(バターと粉を炒める「ルー」の工程で粉の生臭さを完全に飛ばすことがなめらかなベシャメルの基本。牛乳は温めてから加えるとダマになりにくい。卵黄は粗熱を取ってから加えないと固まるため必ず温度を確認してから加えること。パルメザンを加えることでベシャメルが焼き上がり後に美しい黄金色の固まった層になる。ソースはやや硬めのとろみに仕上げること。薄すぎると焼いたときに流れ出して層が崩れる)
◎耐熱皿に重ねてオーブンで焼く
深めの耐熱皿(25×35cm程度)の底にオリーブオイルを薄く塗る。焼いたなすの半量を隙間なく敷き詰める。ひき肉のトマトソースを全量均一に広げる。残りのなすを重ねて再びひき肉を薄く覆う。ベシャメルソースを全体に均一に流し込み、パルメザンチーズを表面に散らす。180度のオーブンで45〜55分、表面が美しい黄金色に焼き固まるまで焼く。オーブンから取り出して最低20〜30分休ませてから切り分ける。(休ませる工程は省略しないこと。焼き上がり直後は各層がまだ熱で流動的な状態のため、切り分けると崩れてしまう。20〜30分置くことで各層が落ち着いて美しい断面が出る。翌日に冷蔵庫で冷やしてから切り分けて温め直す方法が最も断面が美しく仕上がる。ムサカは冷蔵庫で4〜5日間保存できる)
◎盛り付け

盛り付けたムサカ
包丁でひとり分(4×8cm程度)に切り分けて皿に盛る。パセリまたはバジルを散らして仕上げる。ギリシャのサラダ(ホリャティキサラダ)・バゲットまたはピタブレッドを添えるのが定番スタイル。(切り分けるときは包丁を温めておくと断面がきれいに仕上がる。焼き上がり直後よりも翌日以降のほうが各層が安定して旨みが馴染んでおり、ギリシャの家庭では「ムサカは翌日がいちばん美味しい」という言葉が広く信じられている)
料理の歴史と背景
ムサカの名称はアラビア語の「ムサッカア(musaqqa’a)」に由来するとされており、「冷たくされたもの」または「濡らされたもの」を意味するこの言葉が示すように、なすをトマトソースや油に浸して調理する料理の原型はアラブ・オスマン帝国の食文化圏に古くから存在していました。現在のギリシャのムサカはオスマン帝国時代(15〜19世紀)にバルカン半島に広まったなすのトマト煮込み料理を基盤としていますが、今日世界中に知られるベシャメルソースを加えた三層構造のムサカを確立したのは20世紀初頭のギリシャ人シェフ、ニコラオス・ツェレメンデス(Nikolaos Tselementes、1878〜1958年)であるとされています。ツェレメンデスはパリで料理を学んだ後にギリシャに戻り、1910〜20年代にかけてギリシャ料理にフランス料理の技法を積極的に取り入れた料理書を著しました。その中でベシャメルソースをなす・ひき肉と重ねて焼くという現代のムサカの原型となるレシピを記したことが、ムサカをギリシャ料理の代表として世界に定着させるきっかけになったとされています。
現代のギリシャにおいてムサカはアテネ・テッサロニキ・ロードス・クレタ島をはじめ全国のタベルナ・レストラン・家庭の食卓で広く食べられており、ギリシャを訪れる外国人旅行者が必ず注文するギリシャ料理の顔として国際的に最も広く認知された料理のひとつとなっています。1950〜70年代のギリシャの観光産業の急速な発展とともに外国人観光客の食卓に並ぶ機会が増えたムサカは、ギリシャ料理をヨーロッパ・北米に広める役割を担い、今日では世界中のギリシャ料理レストランで定番メニューとして欠かさず提供されています。近年は地中海食ブームとともにギリシャ料理全体への関心が高まるなかで、ムサカは単なるギリシャの郷土料理を超えて地中海の食文化の豊かさを体現する料理として世界中のフードメディアから高い評価を受けています。日本ではギリシャ料理専門店・地中海料理レストランでムサカを提供する店舗が増えており、シナモンを肉料理に使うという発想の新鮮さとなすの料理文化への親しみやすさが組み合わさって、日本人にも受け入れやすい西洋料理のひとつとして認知度を高めています。
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