ポルトガルの定番バカリャウのレシピ
塩漬け干しダラを塩抜きして細かくほぐし、細切りじゃがいも・炒めた玉ねぎ・卵とともに一気に炒め合わせるバカリャウ・ア・ブラスで、リスボン発祥の定番レシピを紹介します。黒オリーブとパセリが彩る庶民派の国民食を、歴史とともに紹介します。
材料
- 塩漬け干しダラ(バカリャウ) 300g
- じゃがいも(メークインまたは男爵) 3個
- 玉ねぎ 2個
- ニンニク 3片
- 卵 6個
- 黒オリーブ(種なし) 10〜12粒
- パセリ(みじん切り) ひとつかみ
- オリーブオイル 大さじ3+揚げ用適量
- 黒こしょう 適量
- 塩 適量(仕上げ用)
- 緑のサラダ・バゲット 各適量(添え物)
バカリャウ(Bacalhau)はポルトガルを代表する塩漬け干しダラで、「バカリャウには365通りの食べ方がある」というポルトガルの諺が示すように毎日違う調理法で一年中食べ続けられるほど多彩な料理に変化する、ポルトガル料理の絶対的な中心に位置する食材です。数あるバカリャウ料理の中でも最も家庭的で広く愛されているのがリスボン発祥の「バカリャウ・ア・ブラス(Bacalhau à Brás)」で、塩抜きして細かくほぐしたバカリャウを細切りじゃがいもの素揚げ・炒めた玉ねぎ・オリーブオイルとともに炒め合わせ、溶き卵を流し込んでふんわりと半熟状に仕上げてから黒オリーブとパセリを散らした一皿は、リスボンの家庭・タスカ(大衆食堂)・レストランを問わずポルトガル全土の食卓で週に何度も食べられる最も身近なバカリャウ料理です。バカリャウ・ア・ブラスの最大の個性は塩漬け干しダラが持つ凝縮された旨みと塩気が卵のまろやかさ・じゃがいものほくほくとした食感・オリーブオイルの芳醇な香りと溶け合うことで生まれる素朴にして深みのある一体感にあり、塩漬け保存という古い食文化から生まれた食材が現代の家庭料理の中心に位置し続けるその生命力はポルトガルの食文化の強靭さを象徴しています。バカリャウの決め手は塩抜きを36〜48時間かけて丁寧に行い途中で水を何度も替えることで塩辛さを抜きながら旨みは残すことと、じゃがいもを細く均一に切り揃えて高温の油でカリッと素揚げしてから炒め合わせることで最後まで食感を保つことであり、この二つが揃って初めてリスボンの老舗タスカで食べるバカリャウ・ア・ブラスの力強い旨みと食感のコントラストに近づきます。ポルトガルではバカリャウはクリスマスイブ(コンソアダ)・イースター・家族の集まりのいずれにも欠かせない料理でありながら同時に毎日の平日の夕食でもあり続けるという二重の存在感を持ち、ポルトガル人のアイデンティティに最も深く刻み込まれた食材として何世紀にもわたって愛され続けています。
バカリャウ・ア・ブラスの作り方
◎バカリャウを塩抜きする
塩漬け干しダラ(バカリャウ)300gをたっぷりの冷水に浸け、冷蔵庫に入れて36〜48時間塩抜きする。6〜8時間ごとに水を新しいものに替える(合計5〜6回)。塩抜き後に水気をよく拭き取り、皮と骨を取り除いてフォークまたは指で細かくほぐす。(塩漬け干しダラはポルトガル食材店・一部の輸入食材店・ネット通販で入手できる。塩抜きが足りないと料理全体が塩辛くなりすぎ、逆に長すぎると旨みまで抜けてしまう。36〜48時間が理想的な塩抜き時間。塩加減の確認は塩抜き後に小さな一片を生のまま食べてみること。まだ塩辛い場合は水を替えてさらに数時間浸けること。バカリャウが入手できない場合は塩ダラまたは甘塩タラを数時間水に浸けて塩分を調整して代用できるが、本来の凝縮した旨みは再現できない)
◎じゃがいもを細切りにして素揚げする
じゃがいも3個(メークインまたは男爵)の皮を剥き、細いマッチ棒状(2〜3mm角・5〜6cm長)に切り揃える。水に5分さらしてでんぷんを落とし、キッチンペーパーで完全に水気を拭き取る。フライパンにオリーブオイル(またはサラダ油)を2cm深さまで注いで180度に熱し、じゃがいもを2〜3回に分けてカリッときつね色になるまで3〜4分揚げる。ペーパータオルに取り出して油を切り、塩をひとつまみふる。(じゃがいもは水気を完全に取り除かないと揚げたときに油が激しく跳ねるため必ず丁寧に拭き取ること。一度にたくさん入れると油温が下がってべたつくため少量ずつ揚げること。揚げ色は薄めのきつね色で止めること。最後の炒め工程でさらに加熱されるため、この時点で揚げすぎると最終的に焦げてしまう。市販の細切りポテト・フライドポテトで代用するとより手軽に作れる)
◎玉ねぎとバカリャウを炒める
大きめのフライパンにオリーブオイル大さじ3を中火で熱し、薄切りにした玉ねぎ2個を12〜15分、しんなりとして軽く色がつくまでゆっくりと炒める。ニンニク3片(薄切り)を加えてさらに2分炒め、ほぐしたバカリャウを加えて全体をよく混ぜ合わせながら3〜4分炒める。素揚げしたじゃがいもを加えてさっと混ぜ合わせ、黒こしょうをたっぷりとふる。(玉ねぎはじっくりと時間をかけて炒めることで甘みを最大限に引き出すこと。バカリャウを加えたら強火にせず中火を保ってほぐしながら炒めることで繊維がバラバラになりすぎず適度な食感が残る。この工程では塩を加えないこと。バカリャウ自体に充分な塩気があるため、後から味を見て必要であれば最後に調整する)
◎卵を加えて半熟に仕上げる
卵6個を溶きほぐしてフライパンの中の食材全体に回しかけ、ゴムべらで大きくゆっくりとかき混ぜながら弱火で加熱する。卵がふんわりと半熟状に固まったら(完全に固まる手前で)すぐに火を止める。塩で味を調え、黒オリーブ10〜12粒・みじん切りのパセリひとつかみを散らして仕上げる。(卵は完全に固めないことがバカリャウ・ア・ブラスの食感の命。半熟のとろりとした状態で火を止めることで全体がしっとりとひとつにまとまる。余熱で火が入るため、固まりきる直前に止めること。卵を入れてからかき混ぜ過ぎると細かくなりすぎるため、大きくゆっくりと動かすこと。黒オリーブは種なしのものを使うか、種ありの場合は食べる前に注意を促すこと。オリーブは加熱せずに仕上げに散らすだけにするとフレッシュな香りが保たれる)
◎盛り付け

盛り付けたバカリャウ
大きめの皿またはフライパンごとテーブルに出す。みじん切りのパセリと黒オリーブを追加で飾り、良質なオリーブオイルを細くたらして仕上げる。緑のサラダ・コーンブレッド・バゲットを添えるのがポルトガルの定番スタイル。(バカリャウ・ア・ブラスはフライパンごと食卓に出して各自で取り分けるスタイルが家庭的で温かみがある。冷めると卵が固まって食感が変わるため、作りたての熱いうちに食べること。残った場合は翌日に少量のオリーブオイルを足して弱火で温め直すとある程度食感が戻る)
料理の歴史と背景
バカリャウとポルトガルの歴史は15世紀の大航海時代に遡ります。ポルトガルの漁師たちは15世紀末から16世紀初頭にかけてニューファンドランド(現在のカナダ東部)やグリーンランド沖の北大西洋でタラの大規模漁業を開始し、船上で内臓を取り除いて大量の塩で漬けてから乾燥させる「塩漬け干しダラ(バカリャウ)」の製法を確立しました。長期保存が可能で高たんぱくのバカリャウは大航海の食料として理想的であっただけでなく、カトリックの断食期間(年間150日以上に及ぶとも言われる)に肉食が禁じられた時期の重要なたんぱく源として16〜19世紀のポルトガル全土に急速に普及しました。「ポルトガル人は死んでもバカリャウを食べる(O bacalhau é o fiel amigo dos portugueses)」という表現が示すように、バカリャウはポルトガル人の精神的・文化的なアイデンティティと切り離せない食材となっており、「フィエル・アミーゴ(忠実な友)」という愛称で親しまれています。バカリャウ・ア・ブラスの名前の由来については19世紀後半にリスボンのバイシャ地区で営業していた「ブラス」という名の酒場の主人または料理人が考案したという説が有力で、リスボンの庶民文化の中から生まれた料理として今日に至るまでその素朴な美味しさが愛されています。
現代のポルトガルにおいてバカリャウはリスボン・ポルト・コインブラ・ファロをはじめ全国のスーパーマーケット・市場・専門店で通年販売されており、ポルトガル人の年間バカリャウ消費量は一人あたり約17kgとヨーロッパ最大の消費国として知られています。2009年にポルトガルが提出したユネスコ食文化無形遺産の申請においてバカリャウ料理文化は重要な要素として含まれており、ポルトガルの国家的な食文化遺産として保護・継承の取り組みが続けられています。ポルトガル移民コミュニティがブラジル・アンゴラ・モザンビーク・フランス・アメリカなどに広がるにつれてバカリャウ料理文化も世界各地に根付いており、特にブラジルではポルトガル系移民の食文化としてバカリャウ料理がクリスマスの定番料理として定着しています。日本ではポルトガル料理への関心の高まりとともにバカリャウを扱う輸入食材店・ポルトガル料理専門店が増えており、塩漬け干しダラという日本の干物文化とも通じる保存食の技法と、オリーブオイル・卵・じゃがいもという親しみやすい食材の組み合わせが日本人にも受け入れられやすい料理として注目を集めています。
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