カナダの定番ツアティエールのレシピ
豚肉と牛肉にシナモンとクローブを効かせたスパイス肉だねをバター生地で包んで焼き上げるケベック州発祥のカナダを代表するミートパイ。クリスマスの食卓を飾る本格レシピを、歴史とともに紹介します。
材料
- 薄力粉 300g(生地用)
- 冷たいバター 150g(生地用)
- 塩 小さじ1/2(生地用)
- 冷水 大さじ4〜5
- 豚の挽き肉 250g
- 牛の挽き肉 150g
- 玉ねぎ 1個
- ニンニク 2片
- じゃがいも 1個
- シナモンパウダー 小さじ1/2
- クローブパウダー 小さじ1/4
- オールスパイス 小さじ1/4
- セージ(乾燥) 小さじ1/2
- 塩 小さじ1(肉だね用)
- 黒こしょう 小さじ1/4
- 鶏ガラスープ 100ml
- 溶き卵 1個分(仕上げ用)
- クランベリーソース・ピクルス 各適量
トゥルティエール(Tourtière)はカナダのケベック州を代表するミートパイで、豚の挽き肉と牛の挽き肉にシナモン・クローブ・オールスパイス・セージというウォームスパイスを効かせてじゃがいもとともに煮詰めた芳醇なスパイス肉だねを、バターをたっぷりと使ったサクサクのショートクラスト生地で上下から包んで黄金色に焼き上げることで、外側はほろほろとバターの香りが漂うパイ生地の層と内側はスパイスの温かみと肉の旨みが凝縮した濃厚な肉だねが劇的に溶け合うケベックのフランス系カナダ人が何世代にもわたって受け継いできた冬の祝祭料理です。トゥルティエールの最大の個性はシナモン・クローブ・オールスパイスという一見甘い菓子のスパイスと豚牛の肉の旨みを組み合わせるという独創的な発想にあり、中世ヨーロッパのスパイス貿易を通じてフランス料理に定着したウォームスパイスの使用法がカナダの厳しい冬の食文化の中で独自の進化を遂げることで生まれた北米大陸にしか存在しないミートパイの美学を体現しています。トゥルティエールの決め手は肉だねにじゃがいもをつなぎとして加えることで生まれるパイの中のしっとりとまとまった食感とスパイスが肉の脂と溶け合うことで生まれる深みのある温かみのある旨みの重層感と、バターをたっぷりと使ったショートクラスト生地を冷たい状態で素早く仕上げることで生まれるほろほろとサクサクが共存する理想的なパイ生地の食感であり、この二つが揃って初めて本場モントリオール・ケベックシティ・ラック・サン・ジャンの家庭でクリスマスイブの深夜ミサの後に温かいトゥルティエールを家族で囲んできた数百年の伝統の味に近づきます。ケベック州ではトゥルティエールはクリスマス・大晦日・新年のリベイヨン(Réveillon・深夜の祝宴)に家族が集まる食卓の中心として登場する最も重要な祝祭料理であり、各家庭が代々受け継ぐ独自のスパイス配合と生地のレシピがトゥルティエールをケベックの食文化のアイデンティティと家族の絆を結びつける象徴的な存在として何世代にもわたって守り続けています。
トゥルティエールの作り方
◎パイ生地を作る
薄力粉300g・塩小さじ1/2をボウルに合わせ、冷たいバター150g(1cm角に切る)を加えて指先で素早く粉に擦り込みパン粉状にする。冷水大さじ4〜5を少しずつ加えながらひとまとめにし、生地を二等分してそれぞれ円盤形に整えてラップに包んで冷蔵庫で1時間以上休ませる。(バターは必ず冷たいものを使うこと。バターが溶けるとサクサクの食感が失われる。生地は混ぜすぎずにひとまとめになったらすぐに止めること。冷蔵庫でしっかり休ませることでグルテンが緩んで伸ばしやすくなる)
◎肉だねを作る
豚の挽き肉250g・牛の挽き肉150gを鍋に入れ、みじん切りにした玉ねぎ1個・ニンニク2片を加えて中火で肉の色が変わるまで炒める。じゃがいも1個(皮をむいてすりおろす)・シナモンパウダー小さじ1/2・クローブパウダー小さじ1/4・オールスパイス小さじ1/4・セージ(乾燥)小さじ1/2・塩小さじ1・黒こしょう小さじ1/4・鶏ガラスープ100mlを加えてよく混ぜる。弱火で蓋をして15〜20分、じゃがいもが溶け込んで肉だねがひとつにまとまるまで煮詰める。完全に冷ます。(すりおろしたじゃがいもが肉だねのつなぎとなりパイの中でまとまった食感を生み出す。じゃがいもは多すぎると肉の旨みが薄まるため適量を守ること。肉だねは完全に冷ましてから生地に包むこと)
◎パイを組み立てて焼く
冷蔵庫から生地を取り出して室温に5分おく。打ち粉をした台の上で生地一枚目を直径28〜30cmの円形に薄く伸ばしてパイ皿(直径22〜24cm)に敷き込む。冷めた肉だねをパイ皿に均一に広げる。生地二枚目を同じ大きさに伸ばして上に被せ、縁をしっかりとつまんで閉じる。上面に蒸気穴を数カ所開け、溶き卵を全体に塗る。210℃に予熱したオーブンで15分焼いてから180℃に下げてさらに25〜30分、表面が美しい黄金色になるまで焼く。(縁の閉じ方はフォークで押さえるスタイルが最も手軽で確実。蒸気穴を開けないと焼いている途中に上面が膨らんで割れる。溶き卵を塗ることで焼き上がりの黄金色と艶が生まれる)
◎盛り付ける

焼き上がったトゥルティエールを10〜15分休ませてから切り分けて皿に盛る。クランベリーソース・ピクルス・グリーンサラダを添えるのがケベックの定番スタイル。温かいまま食べるのが定番だが翌日冷蔵庫から出して温め直すと肉だねの旨みがさらに深まる。
料理の歴史と背景
トゥルティエールの歴史は17世紀のフランス植民地時代のヌーベル・フランス(現ケベック州)に求められます。フランスから渡ってきた入植者たちが故郷のミートパイの伝統をカナダの新天地に持ち込み、ケベックの厳しい冬の気候と豊富な野生鳥獣の狩猟文化と融合することで独自のトゥルティエールとして発展しました。「トゥルティエール」という名称はかつてリュネット鳥(キバシリの一種)などの野鳥を詰めて焼くために使った丸い深皿の名称に由来するとされており、後にその器の名前が料理名として定着しました。17〜18世紀のケベックの農村では豚の屠殺は冬の保存食作りの重要な年中行事であり、屠殺した豚の挽き肉でトゥルティエールを作ってクリスマスと年越しの祝宴に供するという習慣が各地の農村コミュニティに根付きました。カトリックの伝統が強く根付いたケベックではクリスマスイブの深夜ミサ(ミニュイット)の後に家族が集まってリベイヨン(深夜の祝宴)を開く習慣があり、このリベイヨンの中心となる料理としてトゥルティエールが確固たる地位を占めるようになったのは18世紀頃からとされています。地域によってスパイスの配合・使う肉の種類(豚・牛・野うさぎ・鹿)・生地の厚さが異なる多様なスタイルが存在し、ラック・サン・ジャン地方の巨大な深皿トゥルティエールはケベック各地のスタイルの中でも特に独自性が高いものとして知られています。
現代のカナダにおいてトゥルティエールはケベック州を中心に全国のレストラン・ブーランジュリー(パン屋)・スーパーの冷凍食品コーナーで購入できるカナダを代表する冷凍食品・惣菜として定着しており、特にクリスマスシーズンには全国のスーパーマーケットの冷凍食品コーナーに大量に並ぶ季節の風物詩として国民に親しまれています。2012年にケベック州政府がトゥルティエールをケベックの無形文化遺産として公式に認定したことで料理の文化的重要性が改めて確認され、ケベックのフランス語文化とカトリックの伝統を守るという文化的アイデンティティとトゥルティエールが深く結びついていることが国際的にも認識されるようになりました。英語圏のカナダ各州でもケベック系移民コミュニティを通じてトゥルティエールが広まっており、カナダのナショナルフードのひとつとして英仏二言語のカナダという国家のアイデンティティを体現する料理として語られる機会が増えています。日本ではカナダ料理を専門とする店は少ないもののフレンチビストロやパイ専門店でトゥルティエールを提供する店が少しずつ増えており、バターのサクサクとしたパイ生地とシナモンとクローブのウォームスパイスが効いた肉だねの組み合わせは、アップルパイやキッシュなどパイ料理文化に親しんだ日本人の味覚にも馴染みやすい料理として関心が高まっています。
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