モナコの定番バルバジュアンのレシピ
地中海の宝石と呼ばれるモナコ公国の国民食「バルバジュアン」。フダンソウ(スイスチャード)とリコッタチーズの優しい甘みを包み込んでサクッと揚げた、モナコ建国記念日にも欠かせない黄金色のフリット(揚げパイ)の本格レシピを歴史とともにご紹介します。
材料
- 【生地(パート)】
- 薄力粉と強力粉を半々で混ぜたもの(または中力粉) 250g
- オリーブオイル 大さじ3
- 塩 ひとつまみ
- 水 約100ml
- 【フィリング】
- フダンソウ(スイスチャード・なければほうれん草で代用) 200g
- リコッタチーズ 100g
- パルメザンチーズ(すりおろし) 大さじ2
- 玉ねぎ 1/4個
- 長ネギ(白い部分) 5cm
- ニンニク 1片
- 卵 1個
- オリーブオイル 小さじ2
- 塩こしょう 少々
- ナツメグ(任意) 少々
- 【揚げ油】
- サラダ油またはオリーブオイル 適量
フランスのコート・ダジュールに抱かれ、穏やかな地中海を見下ろす世界で2番目に小さな独立国、モナコ公国。F1グランプリや華やかなカジノ、そして世界中のセレブリティが集う高級リゾート地として知られるこの国には、その絢爛豪華なイメージとは裏腹に、驚くほど素朴で温かい家庭料理が根付いています。その代表格であり、モナコ人(モネガスク)のアイデンティティそのものと言える国民食が「バルバジュアン(Barbagiuan)」です。モナコ特有の言語で「ジャンおじさん(Uncle John)」というユニークな名を持つこの料理は、薄く伸ばした自家製の生地で、地中海沿岸でよく採れるフダンソウ(スイスチャード)やリコッタチーズ、香味野菜を包み込み、油でカラッと黄金色に揚げた一口サイズのフリット(揚げパイ)です。サクッとした生地をかじると、中からトロリとしたチーズのコクと青菜の爽やかな甘みが溢れ出し、冷えた白ワインやロゼワインの最高のお供になります。毎年11月19日の「モナコ建国記念日(ナショナルデー)」には絶対に欠かせない、モナコが世界に誇る至高の郷土料理のレシピを紐解いていきましょう。
バルバジュアンの作り方
◎生地(パート)を仕込む
ボウルに薄力粉と強力粉を半々で混ぜたもの(または中力粉)250gと塩をひとつまみ入れます。そこに上質なエキストラバージンオリーブオイルを大さじ3杯加え、指先を使って粉と油をポロポロになるまですり合わせます。その後、水を少しずつ加えながら、表面がなめらかで耳たぶほどの柔らかさになるまでしっかりとこね上げます。完成した生地は乾燥しないようにラップで包み、冷蔵庫で30分から1時間ほど休ませてグルテンを落ち着かせます。
◎フィリング(中身)の野菜を炒める
生地を休ませている間に中身を作ります。モナコ料理に欠かせない青菜であるフダンソウ(スイスチャード、手に入らなければほうれん草で代用)200gを熱湯でサッと茹で、冷水に取ってから水気を固く絞り、細かく刻んでおきます。フライパンにオリーブオイルを引き、みじん切りにしたニンニク、玉ねぎ、長ネギ(白い部分)を透き通るまで弱火でじっくりと炒めて甘みを引き出します。そこに刻んだフダンソウを加えて軽く炒め合わせ、余分な水分を飛ばしたら火から下ろして粗熱を取ります。
◎リコッタチーズと合わせる
粗熱が取れた野菜をボウルに移し、水気を切ったリコッタチーズ100g、すりおろしたパルメザンチーズ大さじ2、そして全体を繋ぐための溶き卵1個分を加えます。フォークを使って全体が均一なペースト状になるまでよく混ぜ合わせたら、塩、黒こしょう、そして少量のナツメグを加えて味をピタリと調えます。これがバルバジュアンの心臓部となる優しい風味のフィリングです。
◎生地を伸ばして成形する
休ませた生地を打ち粉をした台に取り出し、麺棒を使って厚さ2ミリほどの非常に薄いシート状に伸ばします。直径8センチ程度の丸い抜き型(またはコップの縁)で生地を丸くくり抜きます。くり抜いた生地の中央に、ティースプーン1杯分ほどのフィリングを乗せます。生地の縁に指で少量の水を塗り、空気を抜くように半分に折りたたんで半月型(ラビオリや餃子のような形)にします。中身が漏れ出ないよう、縁をフォークの背でギュッと押さえつけて美しい模様をつけながらしっかりと閉じます。
◎黄金色(きつね色)に揚げる

盛り付けたバルバジュアン
鍋にたっぷりのサラダ油(またはオリーブオイルとのブレンド)を注ぎ、170〜180度の中温に熱します。成形したバルバジュアンを静かに油の中に入れ、途中で裏返しながら、両面が美しい黄金色になり、表面に小さな気泡が浮き上がってサクッとするまで3〜4分ほど揚げます。網に上げてしっかりと油を切り、熱々のうちに器に盛り付けて完成です。
料理の歴史と背景
バルバジュアンという風変わりな名前の裏には、モナコの人々が愛してやまないある伝説が存在します。昔々、モナコに「ジャン(Giuan)」という名前のおじさん(モネガスク語でBarba)が住んでいました。ある日、彼はラビオリの中にスイスチャードとリコッタチーズを詰めたものの、上からかけるための伝統的なトマトソースを作るのをすっかり忘れてしまったことに気が付きました。ソースがないラビオリをどうやって食べようかと思案したジャンおじさんは、思い切ってそのラビオリを熱した油の中に投げ込んで揚げてみたのです。すると、外側はサクサク、内側はトロトロの素晴らしい料理が偶然にも誕生し、彼の名を冠して「バルバジュアン(ジャンおじさん)」と呼ばれるようになったと語り継がれています。この伝説がどこまで真実かは定かではありませんが、フランスのプロヴァンス地方やイタリアのリグーリア地方の食文化(揚げピザや揚げパスタ)が交差するモナコの地理的背景を考えれば、非常に納得のいく誕生秘話です。現在では、毎年秋に開催される「モナコ建国記念日」のお祝いの席には絶対に欠かせない料理となっており、モナコ公室の晩餐会から街角のパン屋まで、あらゆる場所でこの「ジャンおじさんの揚げパイ」が楽しまれています。
地中海の太陽が育む「フダンソウ」の魅力
バルバジュアンの主役である「フダンソウ(スイスチャード/フランス語でブレット:Blette)」は、温暖な地中海沿岸で一年中収穫できる非常にポピュラーな葉野菜です。ほうれん草に似ていますが、より葉肉が厚く、茎の部分にほのかな甘みとシャキシャキとした食感があるのが特徴です。南仏やモナコの郷土料理では、このフダンソウをタルトにしたり、グラタンにしたりと日常的に消費しています。フダンソウの少し土臭くも優しい甘みは、リコッタチーズのクセのないミルキーなコクと信じられないほど見事な相性を発揮します。日本で本場のバルバジュアンを再現する際、スイスチャードが手に入らなければ、ほうれん草を使うのが最も一般的で美味しい代用方法ですが、もし可能であれば、少量のセロリの葉やルッコラを刻んで混ぜることで、地中海のハーブのような複雑な香りを補うことができます。揚げることで青菜のカサが減り、驚くほどたっぷりの野菜を摂取できるため、見た目よりもはるかにヘルシーで胃もたれしないのがこの料理の素晴らしい点です。
カジノの街に残る「おふくろの味」
モナコと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、ミシュランの星付きレストランでの豪華なディナーや、高級ホテルのラウンジで傾けるシャンパンかもしれません。しかし、真のモナコの姿は、旧市街(モナコ・ヴィル)の細い路地や、地元民が集う「コンダミーヌ市場(Marché de la Condamine)」にあります。市場のフードコートの一角にある小さな屋台では、エプロン姿の地元のお母さんたちが、山のように積み上げられた揚げたてのバルバジュアンを紙袋に入れて量り売りしています。買い物帰りの人々がそれを片手につまみながら歩く姿は、この小さな国が持つもう一つの、とても親しみやすい顔です。バルバジュアンは、富と名声が集まる世界的なリゾート地にあっても、モナコの人々が決して忘れることのない「自分たちのルーツ」であり、故郷への誇りそのものなのです。休日の午後、よく冷えたプロヴァンス地方のロゼワインやキリッとした辛口の白ワインを用意して、揚げたてのバルバジュアンを頬張れば、自宅にいながらにして、紺碧の地中海に吹く爽やかな風を感じることができるはずです。
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