バヌアツの定番ラップラップのレシピ
すりおろしたキャッサバまたはヤム芋にヤシ乳をたっぷりと混ぜてバナナの葉で包み、熱した石の上で数時間蒸し焼きにする、バヌアツをはじめメラネシア全域の祝宴と日常食に欠かせない伝統料理。南太平洋の自然が育てた素朴にして深い味わいを、歴史とともに紹介します。
材料
- キャッサバ(または山芋・ヤム芋・里芋) 800g
- ヤシ乳(缶詰) 200ml+仕上げ用適量
- 塩 小さじ1
- 鶏もも肉(骨なし) 300g
- 黒こしょう 少量
- バナナの葉(冷凍または生・なければアルミホイル) 4〜6枚
- パパイヤ・パインアップル・バナナなど南国の果物 各適量(添え物)
ラップラップ(Lap Lap)はバヌアツを代表する伝統料理で、キャッサバまたはヤム芋・タロ芋をすりおろしてヤシ乳をたっぷりと混ぜ合わせたペースト状の生地をバナナの葉の上に広げ、鶏肉・豚肉・魚のいずれかをのせてバナナの葉でしっかりと包み込み、あらかじめ熱した石または炭火の上でじっくりと1〜3時間蒸し焼きにすることでヤシ乳の甘みとコクが根菜のでんぷんに深く染み込んだしっとりとしたプディング状の一品に仕上がる、ポートビラをはじめバヌアツ全土の村の祝宴・結婚式・葬儀・土地の儀式(カストム・セレモニー)に欠かせない最も重要な伝統食です。ラップラップ最大の個性はバナナの葉で包んで蒸し焼きにすることで葉の青草の香りがヤシ乳と根菜の生地に移り、焼き石の遠赤外線が外側からゆっくりと熱を伝えることで内側がしっとりとしたもちもちのプディング状に固まる独特の食感にあり、オーブンでもフライパンでも再現できないこの仕上がりはバナナの葉という天然の調理器具が生み出す南太平洋の智慧の結晶です。ラップラップの決め手はキャッサバまたはヤム芋を細かいおろし金で丁寧にすりおろしてでんぷん質の細かいペーストを作ることで蒸し焼き後にしっとりとまとまった食感が生まれることと、ヤシ乳を惜しみなく加えてペーストを充分にしっとりとした状態にしてから包み込むことで蒸し焼き中にでんぷんとヤシ乳の脂肪が結びついてクリーミーなコクが生まれることであり、この二つが揃って初めてバヌアツの村の集会所(ナカマル)や祝宴の場で食べるラップラップの力強い旨みと食感に近づきます。バヌアツではラップラップはカストム(伝統慣習)と深く結びついた料理として特別な社会的意味を持ち、村の長老が石を積み上げて火を熾しラップラップを作る技術を若い世代に伝えることは知識の継承と共同体の絆を強める儀式的な行為として大切にされており、バヌアツの115以上の民族と言語を超えて共有される数少ない食文化のひとつとして南太平洋の多様性の中の統一を象徴しています。
ラップラップの作り方
◎バナナの葉を準備する
バナナの葉(大きめのもの)4〜6枚を流水でよく洗い、表面の汚れを拭き取る。葉をガスコンロの火または熱湯の上で軽くあぶって葉を柔らかくし、折り曲げても破れない状態にする。葉の中央の太い葉脈を除いて包みやすくする。(バナナの葉はアジア系スーパー・東南アジア食材店・一部の輸入食材店・ネット通販で冷凍品が入手できる。生の葉が入手できない場合はアルミホイルで代用できるが、バナナの葉特有の青草の香りはアルミホイルでは再現できない。葉は火であぶることで柔軟性が増して包みやすくなる。あぶりすぎると破れるため手早く行うこと)
◎根菜をすりおろしてヤシ乳と合わせる
キャッサバ(または山芋・ヤム芋)800gの皮を剥き、細かいおろし金で丁寧にすりおろす。すりおろしたものをさらしまたはキッチンペーパーで包んで軽く絞り、余分な水分を取り除く。ヤシ乳(缶詰)200ml・塩小さじ1を加えてよく混ぜ合わせ、しっとりとしたペースト状にする。(キャッサバは日本ではアジア系スーパー・南米系食材店で入手できる。代替として里芋・山芋を使うと食感が近くなる。じゃがいもでも代用できるがでんぷん質が異なるため食感が変わる。すりおろす作業は時間がかかるが、フードプロセッサーで粗くみじん切りにしてからすり鉢で仕上げる方法でも代用できる。ヤシ乳は缶をよく振ってから計量すること。水分が多すぎるとラップラップが柔らかくなりすぎるため、キャッサバの水分は必ず絞ること)
◎具材を準備する
鶏もも肉(骨なし)300gを一口大に切り、塩小さじ1/2・黒こしょう少量・ヤシ乳大さじ2を揉み込んで10分置く。(バヌアツでは鶏肉・豚肉・魚のいずれかを具材として使う。鶏肉が最も一般的で家庭でも作りやすい。豚肉を使う場合は薄切りの豚バラ肉を使うとラップラップの中で脂が溶け出してよりコクが増す。魚を使う場合はサワラ・タイ・マグロなどの切り身を使う。具材はラップラップの中心にのせるため、均一な厚さに切りそろえることで火の通りが均一になる)
◎バナナの葉で包んで蒸し焼きにする
バナナの葉2枚を少し重ねて広げ、根菜のペーストの半量(400g程度)を15cm×20cm程度の長方形に均一に広げる。鶏肉を中央に並べ、残りのペーストを上から覆うように広げる。バナナの葉を四方からしっかりと折りたたんでバナナの繊維または竹串で留める。同じ要領でもう一個作る。蒸し器に入れて強火で1時間〜1時間30分蒸す(または200度のオーブンで1時間〜1時間30分焼く)。(本場では地面に穴を掘って熱した石を並べその上にラップラップを置いてさらにバナナの葉で覆い2〜3時間蒸し焼きにするウム(土窯)調理法を使う。家庭では蒸し器またはオーブンで代用できる。蒸し器を使う場合は途中で水がなくならないよう注意すること。包みを開けたときに竹串を中心に刺して生地が固まっているか確認すること。まだ液状の場合はさらに20〜30分加熱する)
◎盛り付けと食べ方

盛り付けたラップラップ
蒸し上がったラップラップをテーブルに出し、バナナの葉ごと皿に置いて葉を開いて食べる。スプーンまたは手でひとすくいずつ取り分ける。ヤシ乳をひとかけしてから食べるのがバヌアツの伝統的なスタイル。パパイヤ・パインアップル・バナナなど南国の果物を添えると彩りが増す。(ラップラップはバナナの葉ごとテーブルに出すのが最も南太平洋らしい演出。バナナの葉の青草の香りがラップラップの風味の一部になっているため、葉を広げた瞬間に香りが立ち上がる体験が楽しい。熱々のうちが最も美味しいが、冷めてからも食感が変わるだけで旨みは保たれる。残ったラップラップはラップをかけて冷蔵庫で保存し、翌日電子レンジまたは蒸し器で温め直すと食べられる)
料理の歴史と背景
ラップラップの起源はバヌアツ・ソロモン諸島・パプアニューギニアにまたがるメラネシア地域の先史時代の食文化に遡ります。バヌアツへの最初の人類の移住は約3000〜4000年前にさかのぼるとされており、ラピタ文化を持つオーストロネシア語族の人々が太平洋の島々を渡りながらキャッサバ・タロ芋・ヤム芋・バナナ・ヤシの木の栽培と料理文化を各地に持ち込んだとされています。根菜をすりおろして葉で包み熱した石で蒸し焼きにするというラップラップの基本的な調理法は太平洋の島嶼文化に広く共通するウム(土窯・地中石窯)料理の系譜に属しており、ポリネシアのハワイのカルアポーク・フィジーのロボ・ニュージーランドのマオリのハンギなど太平洋全域に類似した石窯料理が存在することからこの調理法の古さと広がりが示されています。バヌアツでは115以上の言語と民族が存在するという世界有数の言語的多様性の中で、ラップラップは言語や民族を超えてほぼすべてのコミュニティに共有される数少ない食文化のひとつであり、その普遍性はラップラップがバヌアツの文化的統一性の象徴として機能してきたことを示しています。
現代のバヌアツにおいてラップラップはポートビラ・ルーガンビル・エスピリトゥサント島など全国の村落・市場・祝宴の場で作られ続けており、2008年にバヌアツがユネスコ世界遺産にサント島の「最高酋長カルナの伝統的権威のある場所」を登録した際にもラップラップを含む伝統的な食文化がカストム(伝統慣習)の重要な要素として国際的に紹介されました。バヌアツの観光産業が発展する中でラップラップは外国人旅行者がバヌアツの伝統文化体験の一環として参加するクッキングクラスや村の訪問プログラムで紹介される機会が増えており、バナナの葉と熱した石という原始的でありながら完成された調理法への関心が世界中の食文化愛好家から集まっています。また2015年のサイクロン・パムによる壊滅的な被害からの復興過程においても、食料支援の中にラップラップの材料となるキャッサバ・タロ芋・ヤシ乳が含まれたことはこの料理がバヌアツの人々の食の安全保障に果たす役割の大きさを示しています。日本では南太平洋料理を専門に提供するレストランはほとんど存在しないものの、バナナの葉で包む調理法と根菜のヤシ乳プディングというスタイルが南国料理イベント・太平洋文化紹介の文脈で紹介される機会が少しずつ増えており、素材の力を最大限に引き出すシンプルな調理法の美しさが注目を集めています。
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