ネパールの定番ダルバートのレシピ
スパイスで香らせたレンズ豆のスープ(ダル)・白飯(バート)・野菜の炒め煮(タルカリ)・漬物(アチャール)を一枚の丸皿に盛り合わせる、ネパール全土で一日二回食べられる国民食。「ダルバートで力百倍」の諺とともに本格レシピを歴史とともに紹介します。
材料
- 米 2合(バスマティライスまたは日本米)
- 【ダル(レンズ豆のスープ)】
- 赤レンズ豆(マスールダル) 200g
- 水 700ml
- ターメリックパウダー 小さじ1/2
- 塩 小さじ1/2
- ギー(またはサラダ油) 大さじ2
- クミンシード 小さじ1
- 玉ねぎ 半個
- ニンニク 3片
- 生姜 10g
- コリアンダーパウダー 小さじ1
- カイエンペッパー 小さじ1/4
- トマト 1個
- 塩 ひとつまみ
- 【タルカリ(野菜の炒め煮)】
- じゃがいも 2個
- いんげん豆 150g
- にんじん 1本
- 青菜(ほうれん草など) ひとつかみ
- 玉ねぎ 1個
- ニンニク 2片
- 生姜 10g
- 青唐辛子 1本
- クミンシード 小さじ1/2
- マスタードシード 小さじ1/2
- ターメリックパウダー 小さじ1/2
- コリアンダーパウダー 小さじ1
- クミンパウダー 小さじ1/2
- 塩 小さじ1
- 水 50ml
- サラダ油 大さじ2
- 【アチャール(漬物)】
- トマト 2個
- 青唐辛子 1〜2本
- ニンニク 1片
- 生姜 5g
- 炒りごま(白) 大さじ2
- コリアンダーリーフ ひとつかみ
- レモン汁 大さじ1
- 塩 小さじ1/2
- ターメリックパウダー ひとつまみ
- パパド 適量(あれば)
ダルバート(Dal Bhat)はネパールを代表する国民食で、スパイスと玉ねぎ・トマト・ニンニク・生姜でテンパリングしたレンズ豆のスープ「ダル」・白飯「バート」・季節の野菜を炒め煮にした「タルカリ」・辛みと酸みのある漬物「アチャール」を丸い金属製の大皿「タール」に盛り合わせ、右手でご飯とダルを混ぜながら食べるネパール全土の山岳地帯・丘陵地帯・都市部を問わず朝と夕の一日二回食べられる最も基本的な日常食です。ダルバート最大の個性は各要素が独立した料理でありながら白飯の上にダルをかけてタルカリとアチャールを混ぜながら食べることで全体がひとつの食事としてまとまるという「組み合わせの完成形」にあり、豆のたんぱく質・米の炭水化物・野菜のビタミン・漬物の発酵成分がひとつの食事に揃うことから栄養バランスの観点からも理想的な食事として評価されています。ダルバートの決め手はダルを作るときに「タルカ(Tarka)」と呼ばれるスパイスを熱した油で香り立てる工程を丁寧に行いスパイスの香りをダル全体に行き渡らせることと、タルカリの野菜をターメリック・クミン・コリアンダーで下味をつけてから炒めることで単なる野菜炒めを超えたスパイスの深みを持つ一品に仕上げることであり、この二つが揃って初めてカトマンズの家庭やポカラの食堂で食べるダルバートの滋味深い美味しさに近づきます。ネパールでは「ダルバート・パワー・チョビス・アウア(ダルバートで力二十四時間)」という言葉が語られるほどこの料理は活力の源として信頼されており、エベレストをはじめヒマラヤの山岳トレッキングに挑む登山者・ポーターたちが険しい山道で一日二回ダルバートを食べながら体力を維持する光景は、この料理が単なる食事を超えたネパール人の生きる力の象徴であることを示しています。
ダルバートの作り方
◎ダル(レンズ豆のスープ)を作る
赤レンズ豆(マスールダル)200gを洗い、水700mlとターメリックパウダー小さじ1/2・塩小さじ1/2とともに鍋に入れ、沸騰させてから弱火で20〜25分、豆が完全に崩れてとろとろになるまで煮る。別の小鍋または小フライパンにギー(またはサラダ油)大さじ2を強火で熱し、クミンシード小さじ1を加えてジュッと香りが立つまで10〜15秒炒める。みじん切りの玉ねぎ半個・ニンニク3片(みじん切り)・生姜10g(みじん切り)を加えて中火で5〜6分炒め、コリアンダーパウダー小さじ1・カイエンペッパー小さじ1/4・トマト1個(粗みじん)を加えてさらに3〜4分炒め、塩ひとつまみを加えてこの「タルカ」を豆の鍋に流し込んでよく混ぜ、弱火で5分馴染ませる。(タルカはダルの命となる香りのベース。クミンシードは油が充分に熱くなってから加えること。油温が低いと香りが出ない。クミンが弾けてパチパチと音を立て始めたらすぐに次の食材を加えること。焦がすと苦みが出るため手早く作業すること。赤レンズ豆は下茹で不要で短時間で崩れるため扱いやすい。黄レンズ豆・緑レンズ豆でも代用できるが茹で時間が長くなる)
◎タルカリ(野菜の炒め煮)を作る
じゃがいも2個(一口大)・いんげん豆150g・にんじん1本(乱切り)・ほうれん草またはほうれん草に似た青菜(ひとつかみ)を用意する。鍋にサラダ油大さじ2を熱し、クミンシード小さじ1/2・マスタードシード小さじ1/2を加えてパチパチと弾けるまで加熱する。玉ねぎ1個(薄切り)を加えて中火で8〜10分炒め、ニンニク2片(みじん切り)・生姜10g(みじん切り)・青唐辛子1本(小口切り)を加えてさらに2分炒める。ターメリックパウダー小さじ1/2・コリアンダーパウダー小さじ1・クミンパウダー小さじ1/2・塩小さじ1を加えてよく混ぜ、じゃがいも・にんじんを加えて2〜3分炒め合わせ、水50mlを加えて蓋をして弱火で10〜12分蒸し煮にする。いんげん豆・青菜を加えてさらに5分煮て仕上げる。(タルカリの野菜の種類は季節・地域・家庭によって自由に変えてよい。カリフラワー・大根・かぼちゃ・なすなども定番。スパイスを油で炒める工程は省略しないこと。この工程がタルカリをスパイスの深みを持つ料理に仕上げる。水は少量だけ加えて蒸し煮にすることで野菜の旨みが閉じ込められる)
◎アチャール(漬物)を作る
トマト2個を食べやすい大きさに切る。青唐辛子1〜2本・ニンニク1片・生姜5gとともにすり鉢または包丁で粗くつぶす。ごま(炒り・白)大さじ2をすり鉢で半量つぶし、コリアンダーリーフひとつかみ(みじん切り)・レモン汁大さじ1・塩小さじ1/2・ターメリックパウダーひとつまみを加えて全体をよく混ぜ合わせる。(アチャールはダルバートの「引き締め役」。酸みと辛みが全体の味を引き立てる。本場ネパールでは発酵させたアチャールや乾燥させた豆のアチャールなど多種多様なバリエーションがあるが、このトマトアチャールが最も手軽に作れる定番スタイル。辛さは青唐辛子の量で調整すること。ごまは食感と香ばしさを加える重要な食材で省略しないこと。レモン汁の代わりにタマリンドペーストを使うとより本場の風味に近づく)
◎白飯を炊く
米2合をよく洗い、通常通り炊く。ネパールでは長粒米(バスマティライス)を使うことが多いが、日本の短粒米でも美味しく仕上がる。(バスマティライスを使う場合は米1合に対して水1.5合で炊くと適度なパラリとした食感に仕上がる。ネパールの食堂では「ダルバートのご飯はおかわり自由」というスタイルが一般的で、ご飯もダルも遠慮なくおかわりするのがネパール流の食べ方。ダルは途中でご飯の上に追加でかけながら食べることで最後まで食事を楽しめる)
◎タール(大皿)に盛り合わせる

完成したダルバート
丸い大皿または金属製のトレイ(タール)の中央に白飯を大きく盛る。ダルを小鉢またはご飯の横に盛り、タルカリ・アチャールをそれぞれ小分けにして皿の周りに並べる。パパド(薄く揚げたレンズ豆のせんべい)があれば添える。(ネパールの伝統的な食べ方は右手のみを使い、ご飯とダルを混ぜながら指先でひとまとめにして口に運ぶスタイル。最初にダルをご飯にたっぷりとかけ、タルカリとアチャールを少量ずつ取りながら食べ進める。右手で食べることはネパールを含む南アジア文化圏の食事作法で、左手は食事には使わない。食器を使う場合はスプーンのみ使うスタイルも一般的)
料理の歴史と背景
ダルバートの起源はネパールの食文化を形成した複数の歴史的系譜に遡ります。豆と米を組み合わせて食べる食文化はインド亜大陸全域に古くから存在しており、ヒンドゥー教・仏教の菜食文化・カースト制度に基づく食の規範・ヒマラヤの農業環境が交わることでネパール固有のダルバートのスタイルが育まれたとされています。ネパールの主要民族グループであるネワール族・マガル族・グルン族・タマン族・バフン(ブラーフミン)族などはそれぞれ異なる食文化を持ちながらも、豆のスープ・米・野菜の炒め煮・漬物という組み合わせを中心とした食事スタイルはネパール全土に共通する食の基盤として定着しました。タルカと呼ばれるスパイスを熱油に加えて香りを引き出してからスープや野菜料理に加える調理技法は南アジア全域に共通する伝統的な技法で、ネパールではクミン・ターメリック・コリアンダー・マスタードシードという組み合わせがダルバートの香りの核心を担っています。ネパールの地理的な多様性(標高8000m超の高山地帯から熱帯低地のタライ平原まで)に応じて米・豆・野菜の種類は地域ごとに異なりますが、ダルバートという食事の枠組みはヒマラヤの全域に共通しています。
現代のネパールにおいてダルバートは都市部の会社員・農村の農民・ヒマラヤを行くポーター・学校の子どもたちの誰もが一日二回食べる文字通りの国民食として、ネパール人のアイデンティティの核心に位置しています。1990年代以降の観光業の発展とともにヒマラヤトレッキングが世界中の登山家・バックパッカーの憧れとなり、トレッキングルート沿いのティーハウス(山小屋食堂)で提供されるダルバートは外国人旅行者にとってネパール食文化の最初の接点として広く知られるようになりました。「ダルバートはおかわり自由」という食堂文化はトレッキング旅行者のあいだで特に高く評価されており、険しい山道を歩いた後に温かいダルバートを好きなだけ食べられる安堵感はネパール旅行の最も印象的な体験のひとつとして世界中の旅行者に語り継がれています。日本ではネパール料理専門店が東京・大阪・名古屋などの都市部に増加しており、多くのネパール料理店でランチメニューとしてダルバートが提供されています。スパイスを使いながらも辛みを抑えた滋味深い豆スープと野菜の炒め煮という親しみやすい構成が日本人にも受け入れられやすく、ヒマラヤの山岳文化への憧れとともにダルバートはネパール料理の顔として日本での認知度を高めています。
このレシピは役に立ちましたか?サイトの継続運営への応援をお待ちしています。
Ko-fiで応援する