スリランカの定番ワタラッパンのレシピ
ヤシ砂糖・ヤシ乳・卵・カルダモン・クローブを合わせてゆっくりと蒸し焼きにする、スリランカのムスリム系コミュニティが生んだ伝統的なプリン。キャラメルのような深い甘みとスパイスの香りが溶け合う唯一無二の食感を、歴史とともに紹介します。
ワタラッパン(Watalappan)はスリランカを代表するムスリム系伝統菓子で、ヤシ砂糖(ジャガリー)をヤシ乳・卵・カルダモン・クローブ・ナツメグとともに丁寧に溶き合わせ、型に流し込んでオーブンまたは蒸し器でゆっくりと低温加熱することでプリンともムースとも異なるなめらかでありながらしっとりと密度のある独特の食感に仕上がる、スリランカ全土のイード・アル=フィトル(ラマダン明けの祭り)・結婚式・誕生日・祝いの席に欠かせない国民的デザートです。ワタラッパン最大の個性はヤシ砂糖が持つキャラメルに似た深いコクと軽い苦みにあり、白砂糖では決して出せないこの複雑な甘みがヤシ乳のクリーミーさ・カルダモンの清涼感・クローブの刺激とひとつに溶け合うことで生まれる香りの重なりは、スリランカ料理の中でも最も精緻な美味しさとして国内外の食通から高く評価されています。ワタラッパンの決め手はヤシ砂糖を完全に溶かして卵液によく馴染ませた後に必ず漉してなめらかな液体にする工程と、低温でゆっくりと湯煎焼きまたは蒸し焼きにすることで卵が急激に固まらずになめらかなプリン状に仕上がることであり、この二つを丁寧に行うことで初めてコロンボの老舗菓子店やムスリム家庭で食べるワタラッパンのとろけるような食感に近づきます。スリランカではワタラッパンはラマダン期間中に家庭で大量に作られて親族・隣人に配り合う慣習があるほか、ホテルやレストランのデザートメニューにも定番として並びスリランカを訪れる外国人旅行者にも広く知られており、スリランカ料理の国際的な普及とともにワタラッパンはスリランカを代表するデザートとして世界中に認知されています。
ワタラッパンの作り方
◎ヤシ砂糖を溶かす
ヤシ砂糖(ジャガリー)150gを包丁で細かく刻んでから小鍋に入れ、水大さじ3を加えて弱火にかける。木べらで混ぜながらヤシ砂糖を完全に溶かし、なめらかなシロップ状になったら火を止めて粗熱を取る。(ヤシ砂糖はインド食材店・カルディ・一部のスーパーで入手できる。固形のジャガリーは包丁で細かく刻んでから溶かすと均一に溶けやすい。ヤシ砂糖が入手できない場合は黒砂糖120gで代用できるが、ヤシ砂糖特有のキャラメルのような深みと軽い苦みは黒砂糖では完全には再現できない。シロップは必ず粗熱を取ってから卵液に加えること。熱いまま加えると卵が固まる)
◎卵液を作る
卵4個をボウルに割り入れ、泡立てないようにゆっくりと溶きほぐす。ヤシ乳(缶詰)300mlを加えてよく混ぜ、粗熱を取ったヤシ砂糖シロップを加えてさらによく混ぜ合わせる。カルダモンパウダー小さじ1・クローブパウダー小さじ1/4・ナツメグパウダーひとつまみ・バニラエッセンス小さじ1/2・塩ひとつまみを加えて全体をよく混ぜる。細かい目のザルまたはガーゼで液体を漉してなめらかにする。(卵は泡立てないようにゆっくりと溶くことが重要。泡立てると焼き上がりに気泡が入ってなめらかな表面にならない。漉す工程はワタラッパンのなめらかな食感を作る最重要工程のひとつ。ヤシ乳は缶を開ける前によく振って均一にしてから計量すること。カルダモンはワタラッパンの香りの核心なので省略しないこと)
◎型に流し込んで蒸し焼きにする
オーブンを160度に予熱する。耐熱プリン型(またはラメキン・ベイキングディッシュ)の内側にヤシ油またはバターを薄く塗り、卵液を静かに流し込む。型を深めのバットに並べ、バットに熱湯を型の高さの半分まで注いで湯煎を作る。160度のオーブンで40〜50分、中心が軽くぷるぷると揺れる程度に固まるまでゆっくりと湯煎焼きにする。オーブンから取り出して粗熱を取り、冷蔵庫で最低2時間冷やし固める。(湯煎焼きはワタラッパンのなめらかな食感を生む最重要の調理法。高温で焼くと卵が急激に凝固してすだちが入り、ざらついた食感になる。焼き上がりの目安は型の縁は固まっているが中心5cmほどがまだ軽くぷるぷると揺れる状態。蒸し器を使う場合は中火で30〜35分蒸す。冷蔵庫で一晩冷やすとスパイスが馴染んでより美味しくなる)
◎盛り付け

冷やし固めたワタラッパンの型の縁をナイフでそっと外し、皿の上に逆さにして型から外す。刻んだカシューナッツ・レーズン・バラの花びら(食用)を散らすのがスリランカの伝統的な仕上げのスタイル。型から外さずそのまま型ごと出すスタイルでも美しく仕上がる。(カシューナッツはスリランカ産が有名で、ワタラッパンとの相性が抜群。炒ったカシューナッツを粗く刻んで散らすと香ばしさが加わる。ワタラッパンは冷たい状態が最も美味しく、冷蔵庫から出したてを食べるのがおすすめ)
料理の歴史と背景
ワタラッパンの起源はスリランカのムスリム系コミュニティ、特に「スリランカ・ムーア人」と呼ばれるアラブ系商人の子孫たちの食文化に深く根ざしています。7世紀以降にアラビア半島・ペルシャ・インド南部からスリランカに渡ってきたムスリム商人たちはスパイス貿易を通じてセイロン島に定住し、スリランカ在来のヤシ砂糖・ヤシ乳文化と自らが持ち込んだスパイス・卵・乳製品を使った菓子文化を融合させることで独自のムスリム菓子文化を育みました。ワタラッパンという名はマレー語で「混ぜる・かき混ぜる」を意味する言葉に由来するという説が有力で、スリランカのムスリムコミュニティとマレー系移民(カンディアン・マレー)の交流を通じてマレー半島の卵菓子文化がスリランカのヤシ砂糖・スパイス文化と結びついた料理であることをその名が示しています。16〜18世紀のポルトガル・オランダ・イギリスによるセイロン島の植民地支配の時代には、ヨーロッパのプディング・カスタード文化がスリランカの伝統菓子に影響を与えたとも考えられており、ワタラッパンの卵と乳を使ったプリン状の形態はその影響を反映している可能性があります。
現代のスリランカにおいてワタラッパンはコロンボをはじめキャンディ・ゴール・トリンコマリーなど全国のムスリム系菓子店・高級ホテル・レストランで提供されており、ラマダン期間中は家庭でも大量に作られて親族や隣人に贈り合う文化が全国的に定着しています。スリランカの国際的な観光業の発展とともにワタラッパンはスリランカを代表するデザートとして外国人旅行者にも広く知られるようになり、コロンボの高級ホテルのデザートメニューでは現代的なアレンジを加えたワタラッパンが定番の一品として並んでいます。2010年代以降はスリランカ料理が欧米のフードメディアで注目を集める中でワタラッパンも国際的な認知度を高めており、ヤシ砂糖の複雑な甘みとスパイスの香りを持つアジアのプリンとして世界中のデザート愛好家から高い関心を集めています。日本ではスリランカ料理専門店の増加とともにワタラッパンを提供する店舗が登場しており、ヤシ砂糖のキャラメルのような深みとカルダモンの清涼感という組み合わせがこれまでの日本のプリン文化にない新しい美味しさとして注目を集めています。
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