アフリカ

エチオピアの定番ドロワットのレシピ

20種類以上のスパイスを合わせたベルベレと澄ましバターのニトルキベで鶏肉とゆで卵をじっくりと煮込む、エチオピアの祝宴に欠かせない最上位の国民食。赤く深みのあるソースとインジェラとの組み合わせを、歴史とともに紹介します。

エチオピアの定番ドロワットのレシピ
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上の
郷土レシピ.com代表
120 調理時間
4人前 分量
約480kcal カロリー

材料

  • 鶏もも肉(骨付き・皮除く) 600g
  • 玉ねぎ 4個
  • ニンニク 5片
  • 生姜 20g
  • レモン汁 大さじ2
  • チキンストック(またはお湯) 300ml
  • 半熟ゆで卵 6個
  • 塩・砂糖 各適量
  • コリアンダーリーフ 適量
  • インジェラ(なければナンまたはご飯) 適量
  • 【ベルベレ(自家製の場合)】
  • コリアンダーシード 大さじ2
  • クミンシード 大さじ1
  • フェヌグリークシード 小さじ1
  • 黒コショウ粒 小さじ1
  • カルダモン 3粒
  • クローブ 3粒
  • シナモンスティック 1本
  • 韓国産唐辛子粉(またはチリパウダー) 大さじ4
  • パプリカパウダー 大さじ2
  • ターメリックパウダー 小さじ1
  • 生姜パウダー・ニンニクパウダー 各小さじ1
  • 塩 小さじ1
  • 【ニトルキベ(自家製の場合)】
  • 無塩バター 200g
  • カルダモン・クローブ 各3粒
  • シナモンスティック 半本
  • ターメリックパウダー 小さじ1/4
  • 生姜スライス・ニンニク・玉ねぎ 各少量

ドロワット(Doro Wat)はエチオピアを代表する鶏肉の煮込み料理で、玉ねぎを油を使わずに長時間炒めて甘みを引き出した土台に、20種類以上のスパイスを合わせた赤い辛みペースト「ベルベレ(Berbere)」とエチオピア産スパイス入り澄ましバター「ニトルキベ(Niter Kibbeh)」を加えて鶏肉とゆで卵をじっくりと1〜2時間煮込むことで深い赤みを帯びたとろりと濃厚なソースが鶏肉の旨みとすべての香りをひとつに包み込む、エチオピア正教会のクリスマス(ゲンナ)・復活祭(ファシカ)・エピファニー(ティムカット)などの宗教的祝祭・結婚式・大切なゲストを迎える席に欠かせないエチオピア最上位の国民食です。ドロワットの最大の個性は玉ねぎを完全に乾煎りして細胞を壊すことで引き出す圧倒的な甘みの土台と、ベルベレが持つ辛み・酸み・スモーキーさ・花の香りが幾重にも重なった複雑なスパイスの深みにあり、この二つが溶け合うことで生まれるソースの凝縮感はエチオピア料理が世界で最も複雑な煮込みソースのひとつとして評価される所以となっています。ドロワットの決め手は玉ねぎを最低45分、可能であれば1時間かけて油なしで乾煎りし続ける忍耐と、ベルベレを加えてからニトルキベが分離するまでさらに炒め続けることで生まれるソースの凝縮した旨みであり、この二つの工程を妥協なく行うことで初めてアディスアベバの家庭やレストランで食べるドロワットの深みが生まれます。エチオピアではドロワットはエチオピア正教の断食明けの特別な日にのみ食べることが許される「祝いの料理」という位置づけが強く、大きなバスケット型の器「メスブ」に盛られたインジェラ(テフ粉の酸味のあるクレープ状パン)の上にドロワットを中心とした複数のワット(煮込み)を盛り付けてみんなで手を使って食べる共食のスタイルはエチオピア文化の最も重要な食の場面を象徴しています。

ドロワットの作り方

◎ニトルキベを作る(または準備する)
無塩バター200gを小鍋に入れて弱火でゆっくりと溶かす。カルダモン3粒・クローブ3粒・シナモンスティック半本・ターメリックパウダー小さじ1/4・生姜スライス2枚・ニンニク2片(半割り)・玉ねぎ1/4個(薄切り)を加え、泡を除きながら20〜25分、水分とミルクが完全に飛んで黄金色の澄んだ油だけが残るまで極弱火で加熱する。細かい目のザルまたはガーゼで漉して冷ます。(ニトルキベはエチオピア料理の土台となるスパイス入り澄ましバター。市販のギー(インド産澄ましバター)にスパイスを加えて代用することもできる。ニトルキベは冷蔵庫で1ヶ月間保存できるため多めに作り置きしておくと便利。漉した後の残りのスパイスや固形物はカレーなどに活用できる)

◎ベルベレを合わせる(または準備する)
コリアンダーシード大さじ2・クミンシード大さじ1・フェヌグリークシード小さじ1・黒コショウ粒小さじ1・アジョワンシード(なければ省略可)小さじ1/2・カルダモン3粒・クローブ3粒・シナモンスティック1本をフライパンで乾煎りして香りを出し、冷めたらミキサーで細かく粉砕する。粉砕したスパイスに韓国産唐辛子粉(またはチリパウダー)大さじ4・パプリカパウダー大さじ2・ターメリックパウダー小さじ1・生姜パウダー小さじ1・ニンニクパウダー小さじ1・塩小さじ1を加えてよく混ぜ合わせる。(ベルベレはエチオピア食材店・一部の輸入食材店で既製品が入手できる場合がある。自家製の場合は上記が簡略版レシピで、本格的なベルベレはさらに多くのスパイスを使う。韓国産唐辛子粉を使うと色鮮やかな深い赤みが出る。チリパウダーだけでは色が出にくいためパプリカパウダーと合わせて使うこと)

◎玉ねぎを乾煎りして土台を作る
玉ねぎ4個を細かいみじん切りにする。大きめの厚底鍋またはダッチオーブンに油をいっさい加えずに玉ねぎだけを入れ、中火〜弱火で木べらで混ぜながら45〜60分、玉ねぎが完全にきつね色を超えて茶色がかった深いアンバー色になり体積が元の1/4以下に縮まるまで乾煎りし続ける。途中で焦げつきそうになれば水を大さじ1〜2加えながら炒める。(「油なし・長時間乾煎り」がドロワットの旨みの土台を作る最重要工程。玉ねぎの水分で蒸されながら炒まることで細胞が壊れて甘みが最大限に引き出される。この工程を短縮するとドロワット特有の深みが出ない。45分以上かけることが本場の味に近づく唯一の方法。厚底の鍋を使うと焦げにくく均一に炒まる)

◎ベルベレとニトルキベを加えて炒める
乾煎りした玉ねぎにニトルキベ大さじ4を加えてよく混ぜ、ベルベレ大さじ3〜4を加えてさらに中火で10〜15分、ニトルキベが再び鍋の縁に分離して滲み出てくるまで炒め続ける。ニンニク5片(すりおろし)・生姜20g(すりおろし)を加えてさらに3分炒め、塩小さじ1・砂糖小さじ1/2を加えて混ぜる。(ニトルキベが再び分離するまで炒めることがドロワットのソースの凝縮感を生む工程。ベルベレの辛みが強すぎると感じる場合はパプリカパウダーを足して辛みを調整する。ベルベレとニトルキベを充分に炒め合わせることで両者の香りが一体化した深いソースベースが完成する)

◎鶏肉を煮込む
鶏もも肉(骨付き)600gを皮を除いてフォークで表面に数カ所穴を開け、レモン汁大さじ2・塩小さじ1を全体に揉み込んで10分置く。水気を拭き取って鍋のソースベースに加え、チキンストック(またはお湯)300mlを加えて全体をよく混ぜる。蓋をして弱火で40〜50分、鶏肉がほろほろにやわらかくなるまで煮込む。途中で半熟ゆで卵(殻を剥いてフォークで表面に穴を開けたもの)6個を加え、残り20分間ソースとともに煮込む。(鶏肉にフォークで穴を開けてレモン汁で処理することで臭みが取れてソースが染み込みやすくなる。骨付きの鶏もも肉を使うと骨から旨みが溶け出してソースがより濃厚になる。卵にも穴を開けることでソースが内部まで染み込みやすくなる。ゆで卵は半熟状態で加えると煮込んでいるうちにちょうどよい固さに仕上がる)

◎盛り付け

エチオピアの定番ドロワットの完成品 盛り付け画像

盛り付けたドロワット
大きめの皿またはバスケット型の器にインジェラ(なければナン・クレープ・ご飯)を広げ、ドロワットを中央にたっぷりと盛る。鶏肉とゆで卵を見えるように配置し、コリアンダーリーフを散らして仕上げる。アイブ(エチオピアのカッテージチーズ)・ティブス(炒め肉)などと合わせてメスブ(大皿)に盛り合わせるのが本場のスタイル。

料理の歴史と背景

ドロワットの起源はエチオピアの食文化が文字として記録される以前に遡るとされており、エチオピア正教会の長い断食の習慣(年間200日近くに及ぶとも言われる断食期間)と深く結びついています。エチオピア正教の断食期間中は肉・卵・乳製品の摂取が禁じられるため、断食明けの祝祭日に肉と卵を使ったドロワットを食べることは単なる料理以上の宗教的・精神的な意味を持ちます。特にエチオピア正教のクリスマスにあたるゲンナ(1月7日)とエピファニーにあたるティムカット(1月19日)の前夜には全国の家庭でドロワットを作る慣習があり、断食明けの最初の食事としてドロワットを家族や親族と囲む光景は数百年にわたってエチオピアの宗教的・社会的な生活の中心に位置してきました。ベルベレのような複合スパイスペーストの使用やニトルキベのようなスパイス入り澄ましバターの文化は、古代からエチオピア・エリトリア・アムハラの食文化に根付いたものであり、周辺地域のアラビア・インド・中東のスパイス貿易との交流を通じて数世紀かけて発展したものとされています。

現代のエチオピアにおいてドロワットはアディスアベバをはじめゴンダル・アクスム・ハラールなど全国のエチオピア料理レストランと家庭の食卓で祝いの日の料理として根強く愛されており、インジェラと合わせてメスブに盛り付けて手でちぎって食べる共食スタイルはエチオピアの食文化を象徴する光景として国内外に広く知られています。1970〜80年代のエチオピア移民の増加とともにアメリカ・ヨーロッパ・日本にエチオピア料理店が開店し始め、ドロワットとインジェラの組み合わせはエチオピア料理の国際的な普及を牽引するアイコンとなりました。2010年代以降はアフリカ料理のグローバルな再評価の流れの中でエチオピア料理は「世界で最も洗練された香辛料文化のひとつ」として欧米の食メディアから高い評価を受けるようになり、ドロワットはその代表として世界中のフードシーンで注目を集めています。日本ではエチオピア料理専門店が東京・大阪などの都市部に定着しており、ベルベレの複雑な香りとニトルキベの芳醇な旨みが溶け合ったドロワットのソースは、他のどの料理とも似ていない唯一無二の深みを持つ煮込みとして日本の食通から強い関心を集めています。

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