アフリカ

モロッコの定番ハリラのレシピ

ひよこ豆・レンズ豆・トマト・セロリをクミン・シナモン・ターメリック・ジンジャーとともに煮込み、小麦粉を溶いたルーと溶き卵でとろみをつけてレモンで仕上げる、モロッコのラマダン断食明けの食卓に欠かせないスープ。複雑に重なるスパイスと豆の旨みを、歴史とともに紹介します。

モロッコの定番ハリラのレシピ
Author
上の
郷土レシピ.com代表
70 調理時間
4人前 分量
約320kcal カロリー

材料

  • 玉ねぎ 1個
  • セロリ 2本
  • ニンニク 3片
  • オリーブオイル 大さじ3
  • クミンパウダー 小さじ2
  • シナモンパウダー 小さじ1/2
  • ターメリックパウダー 小さじ1/2
  • 生姜パウダー(または生姜すりおろし) 小さじ1/2(または小さじ1)
  • 黒こしょう 小さじ1/4
  • サフラン ひとつまみ
  • 完熟トマト 3個(またはカットトマト缶400g)
  • 羊肉または牛肉(角切り) 200g(省略可)
  • 水 1.5リットル
  • ひよこ豆(乾燥・前日から水で戻す) 100g(または缶詰200g)
  • 赤レンズ豆 100g
  • コリアンダーリーフ(みじん切り) 大さじ2+仕上げ用適量
  • パセリ(みじん切り) 大さじ2+仕上げ用適量
  • 塩 小さじ1と1/2
  • 【テドウィラ(小麦粉のルー)】
  • 薄力粉 大さじ3
  • 水 150ml
  • 【仕上げ】
  • 卵 2個
  • レモン汁 大さじ3(仕上げ用大さじ2+追いレモン用大さじ1)
  • デーツ・シェバキア・モロッコパン(ホブズ) 各適量(添え物)

ハリラ(Harira)はモロッコを代表するスパイス香るトマトベースのスープで、ひよこ豆・レンズ豆・羊肉または牛肉・トマト・セロリ・玉ねぎをクミン・シナモン・ターメリック・ジンジャー・サフラン・コリアンダー・パセリとともに煮込み、小麦粉を水で溶いた「テドウィラ(Tedouira)」と呼ばれるルーを加えてとろみをつけ、さらに溶き卵を細く流し入れてレモン汁で酸みを加えながら仕上げることでトマトの旨み・豆のコク・スパイスの重なり・卵のまろやかさが一体となった独自の複雑な深みを持つ、モロッコ全土のラマダン期間における断食明けの食事(イフタール)に欠かせない国民的スープです。ハリラ最大の個性は小麦粉のルーと溶き卵という二種類のとろみ付けを組み合わせることで生まれるなめらかでありながら食べごたえのある独特のテクスチャーにあり、このスープとも煮込みともつかない中間的な食感はモロッコ料理の中でも最も個性的な仕上がりとして内外の食通から高く評価されています。ハリラの決め手は玉ねぎ・トマト・スパイス・ハーブをオリーブオイルで炒め合わせる最初のベース作りを丁寧に行って香りの土台を固めることと、テドウィラを加えてから絶えず混ぜながら煮詰めて焦がさないようにとろみを引き出すことであり、この二つが揃って初めてマラケシュやフェズの旧市街の食堂やモロッコの家庭で食べるハリラの豊かな風味に近づきます。モロッコではハリラはラマダン期間中、日没の時報(マグリブのアザーン)が流れると同時に家族全員が食卓に着いてハリラを飲むことから断食を解く「最初の一杯」として特別な宗教的・文化的意味を持つ料理であり、デーツ(なつめやし)・ムルジャン(ごまとはちみつの揚げ菓子)・シェバキア(揚げ菓子)とともにラマダンの食卓の中心を担い、この組み合わせはモロッコ人の最も深い食の記憶と結びついています。

ハリラの作り方

◎ベースを炒める
玉ねぎ1個をみじん切り、セロリ2本を薄切り、ニンニク3片をみじん切りにする。大きめの厚底鍋にオリーブオイル大さじ3を中火で熱し、玉ねぎとセロリを8〜10分、しんなりとするまで炒める。ニンニクを加えてさらに2分炒め、クミンパウダー小さじ2・シナモンパウダー小さじ1/2・ターメリックパウダー小さじ1/2・生姜パウダー小さじ1/2(または生姜すりおろし小さじ1)・黒こしょう小さじ1/4・サフラン(ひとつまみ・大さじ1の湯に溶いておく)を加えて1〜2分炒め、スパイスの香りを充分に引き出す。トマト3個(粗みじん)またはカットトマト缶400gを加えて木べらで崩しながら中火で8〜10分、水分が半量になるまでしっかりと炒め煮にする。(スパイスは油と一緒に加熱することで香り成分が最大限に引き出される。この工程を丁寧に行うことがハリラの香りの深さを決定づける。サフランは必ず湯に溶いてから加えること。そのまま加えると色と香りが均一に広がらない。トマトはしっかりと煮詰めて酸みを旨みに変えてから次の工程に進むこと)

◎肉と豆を加えて煮込む
羊肉(または牛肉)の角切り200g(なければ省略可)をベースに加えて全体に絡めながら3〜4分炒める。水1.5リットルを加えてひと煮立ちさせ、アクをすくい取る。水で戻したひよこ豆(乾燥)100g(または缶詰200g)・赤レンズ豆100gを加え、コリアンダーリーフ(みじん切り)大さじ2・パセリ(みじん切り)大さじ2・塩小さじ1と1/2を加えて蓋をして弱火で30〜40分、ひよこ豆がやわらかくなるまで煮込む。(ひよこ豆の乾燥を使う場合は前日から水に浸けて戻しておくと煮える時間が大幅に短縮できる。羊肉が入手できない場合は省略してもヴィーガン版として充分に美味しく仕上がる。コリアンダーとパセリは最初から加えることで香りがスープ全体に溶け込む。仕上げ用として少量取り置いておくと彩りよく盛り付けられる)

◎テドウィラ(小麦粉のルー)でとろみをつける
薄力粉大さじ3を水150mlでよく溶いてダマのないなめらかな状態にする(テドウィラ)。煮込んだスープを弱火にして、テドウィラを細く糸を引くように流し込みながら木べらで絶えず混ぜ続ける。全量加えたら中火にして混ぜながら5〜7分煮て、スープにとろみがつくまで煮詰める。(テドウィラを加えた後は絶対に混ぜる手を止めないこと。火を強めすぎると鍋底が焦げつきやすくなる。スープのとろみはポタージュよりも少しゆるい程度が理想的。とろみが強くなりすぎた場合は水を少量加えて調整する。この工程がハリラをスープ以上の存在にする重要なステップ)

◎溶き卵を加えてレモンで仕上げる
卵2個をボウルでよく溶きほぐし、レモン汁大さじ2を加えてよく混ぜる。弱火にしたスープの中に卵液を細く糸を引くように流し込みながら木べらで素早くかき混ぜ、卵がふんわりとした糸状に固まったらすぐに火を止める。仕上げにレモン汁大さじ1を加えて酸みを調整し、塩で味を調える。コリアンダーリーフ・パセリをたっぷりと散らす。(卵は細く少しずつ流し入れることでスープの中に均一な糸状に広がってなめらかなとろみを加える。一気に流し込むと卵が塊になってしまう。レモン汁はハリラの清涼感を生む最後の仕上げ。最初から全量加えずに味を見ながら少しずつ足すこと。火を止めた後に加えると香りが最もよく残る)

◎盛り付け

モロッコの定番ハリラの完成品 盛り付け画像

盛り付けたハリラ
深めの器に熱々のハリラをたっぷりとよそい、コリアンダーリーフ・パセリを散らして仕上げる。レモンのくし切りを添え、好みで追いレモンできるようにする。モロッコの伝統的なスタイルではデーツ・シェバキア(揚げ菓子)とともにラマダンの食卓に出す。バゲットまたはモロッコパン(ホブズ)を添えてスープに浸しながら食べるのが最もポピュラーな食べ方。(ハリラは翌日温め直すとスパイスとハーブの香りがさらに馴染んで美味しくなる。冷蔵庫で3〜4日間保存できる。温め直す際にとろみが強くなった場合は水を少量加えて調整すること。残ったハリラはパスタや米を加えてさらにボリュームを出すアレンジも楽しめる)

料理の歴史と背景

ハリラの起源はモロッコの食文化が形成された中世イスラム時代に遡るとされており、アラビア語で「なめらかにする・柔らかくする」を意味する「harr(ハル)」に由来するという説が有力です。ベルベル人(アマジグ人)の遊牧・農耕文化に根ざした豆のスープとアラブ・アンダルシア料理のスパイス文化が融合し、さらに中世モロッコの宮廷料理で洗練されることで現在のハリラの多層的なスパイス構成が確立したとされています。特に8〜15世紀にイベリア半島のアンダルシア地方(現在のスペイン南部)で栄えたムスリム文化「アンダルシア・イスラム文明」がモロッコに流入したことで、サフラン・シナモン・ジンジャーなどの香辛料を複合的に使う料理文化がハリラに取り込まれたとも考えられています。モロッコではラマダンの断食期間中に断食明けの最初の食事としてハリラを飲む慣習は少なくとも数百年前から記録されており、16世紀のモロッコの歴史書にもラマダンとハリラの組み合わせについての言及が見られます。小麦粉のルー(テドウィラ)でとろみをつけるという技法はモロッコ固有の工夫で、同じ地域の似た料理(アルジェリアのハリラ・チュニジアのルービ)とはこのとろみ付けの方法が大きく異なりモロッコ版の最大の個性となっています。

現代のモロッコにおいてハリラはラマダン期間の断食明けに欠かせない料理として全国民に深く愛されており、ラマダンの月になるとカサブランカ・マラケシュ・フェズ・ラバトをはじめ全国の家庭で毎夕日没前から大鍋でハリラを煮込む光景が見られます。ラマダン以外の時期も朝食・昼食・夕食を問わず通年で食べられており、マラケシュのジャマ・エル・フナ広場をはじめモロッコ全土の市場・食堂・屋台で一年中提供されています。モロッコを訪れる外国人旅行者にとっても、ジャマ・エル・フナ広場の夜の屋台でハリラを飲む体験はモロッコ旅行の最も象徴的なシーンのひとつとして広く知られており、2001年にユネスコが「ジャマ・エル・フナ広場の文化空間」を無形文化遺産に登録した際にはハリラの屋台文化もその一部として認識されました。日本ではモロッコ料理・北アフリカ料理への関心の高まりとともにクスクス・タジンに続く次のモロッコ料理として注目を集めており、複数のスパイスとレモンの酸みが重なるハリラの複雑な風味は、これまでの日本のスープ文化にない新しい美味しさとして評価されています。

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