ウズベキスタンの定番ラグマンのレシピ
小麦粉と水だけで手延べした長い麺をラム肉・パプリカ・トマト・ズッキーニ・ジャガイモとクミン・コリアンダーで煮込んだソースとともに食べる、ウイグル系の食文化がシルクロードを経てウズベキスタンに根付いた伝統麺料理。中国の麺文化とシルクロードのスパイスが出会う一杯を、歴史とともに紹介します。
材料
- 【手延べ麺】
- 強力粉 300g
- 塩 小さじ1
- 水 140ml
- サラダ油 小さじ1+茹で後の絡め用適量
- 塩(茹で湯用) 大さじ2
- 【ヴァジャ(肉と野菜のソース)】
- ラム肉(骨なし)または牛肉 400g
- 玉ねぎ 2個
- ニンニク 5片
- 赤ピーマン 1個
- 黄ピーマン 1個
- トマト 2個
- ズッキーニ 1本
- じゃがいも 2個
- ラードまたはサラダ油 大さじ3
- クミンパウダー 小さじ1
- コリアンダーパウダー 小さじ1
- パプリカパウダー 大さじ1
- スターアニス 1個
- ターメリックパウダー 小さじ1/4
- 塩 小さじ1
- 黒こしょう 適量
- 水またはラムストック 300ml
- コリアンダーリーフまたはパセリ たっぷり
- 赤玉ねぎ(薄切り)・レモンのくし切り・チリオイル 各適量(添え物)
ラグマンの作り方
◎手延べ麺の生地を作る
強力粉300g・塩小さじ1を大きめのボウルに入れてよく混ぜる。水140ml・サラダ油小さじ1を少しずつ加えながら手でひとまとめにし、なめらかになるまで10〜12分しっかりとこねる。生地をラップで包んで室温で最低30分、できれば1時間休ませる。(生地の硬さは耳たぶより少し硬い程度が目安。柔らかすぎると手延べ中に切れやすくなり、硬すぎると伸びにくくなる。こね上がりの目安は表面がなめらかでツヤがある状態。休ませる工程は省略しないこと。グルテンを充分に休ませることで手延べ時に生地がスムーズに伸びる。夏は冷蔵庫で休ませてもよい。サラダ油を少量加えることで生地の表面が乾燥しにくくなり手延べ作業が楽になる)
◎麺を手延べする
休ませた生地を直径2cmほどのロープ状に伸ばし、さらに手で転がしながら鉛筆ほどの細さに伸ばす。伸ばした生地に薄く油を塗り、8cm長さのS字状に折り重ねてバットまたは大皿に並べてさらに10〜15分休ませる。一本ずつ両端を持ってテーブルに軽く叩きつけながら引き伸ばし、直径3〜4mm・長さ60〜80cmのスパゲッティ状の麺にする。麺は塩水(水1リットル・塩大さじ2)で5〜7分茹でてザルに上げ、冷水でもみ洗いしてからサラダ油を薄く絡める。(手延べは最初は難しく感じるが、生地を少しずつ引き伸ばしながらリズミカルにテーブルに叩きつけることでどんどん細く長くなる。切れてしまった場合は結びめをつけて続けることができる。手延べに挑戦する時間がない場合はうどん・中華麺(生)または市販の太い乾燥パスタで代用できるが、手延べ麺特有の弾力は出ない。麺は茹でた後に油を絡めることでくっつきを防ぎソースとよく絡む)
◎ヴァジャ(肉と野菜のソース)を作る
ラム肉(または牛肉・骨なし)400gを2cm角に切る。玉ねぎ2個を薄切り、ニンニク5片をみじん切り、赤ピーマン1個・黄ピーマン1個を2cm角、トマト2個を粗みじん、ズッキーニ1本を乱切り、じゃがいも2個を一口大にする。大きめの鍋またはカザン(中央アジアの鋳鉄鍋)にラードまたはサラダ油大さじ3を強火で熱し、ラム肉を全面に焼き色がつくまで5〜6分ブラウニングして取り出す。同じ鍋で玉ねぎを8〜10分きつね色になるまで炒め、ニンニクを加えて2分炒め、クミンパウダー小さじ1・コリアンダーパウダー小さじ1・パプリカパウダー大さじ1・スターアニス1個・ターメリックパウダー小さじ1/4・塩小さじ1・黒こしょうを加えて1〜2分スパイスを炒める。(ブラウニングはソースの旨みの土台を作る最重要工程。ラム肉はしっかりと焼き色をつけることでフォンが生まれてソース全体のコクの基盤となる。ラードを使うと中央アジア料理特有の香りに近づくがサラダ油でも美味しく作れる。スターアニスはラグマンに独特のアニス風味を加える重要なスパイスで省略するとウズベキスタンらしさが薄れる)
◎ソースを煮込んで仕上げる
炒めたスパイスにトマトを加えて木べらで崩しながら5分炒め煮にする。ブラウニングしたラム肉を戻してよく混ぜ、水またはラムストック300mlを加えてひと煮立ちさせる。じゃがいもを加えて蓋をして中火で15分煮込み、ピーマン・ズッキーニを加えてさらに10分煮込む。野菜がやわらかくなったら塩で味を調え、コリアンダーリーフまたはパセリのみじん切りをたっぷりと加えて仕上げる。(トマトをしっかりと炒め煮にしてから肉を戻すことでソースに酸みと旨みが凝縮される。野菜は硬さが異なるため加えるタイミングをずらすこと。じゃがいもは早めに、ピーマンとズッキーニは遅めに加えることで各野菜がベストな状態に仕上がる。ソースは麺の上からたっぷりとかけるため少し水分を多めに仕上げること。ラム肉が入手できない場合は牛もも肉・鶏もも肉で代用できる)
◎盛り付け

盛り付けたラグマン
大きめの深皿または椀に手延べ麺をこんもりと盛る。熱々のヴァジャを麺の上にたっぷりとかける。コリアンダーリーフ・パセリを散らし、チリオイルまたは唐辛子フレークを好みでかける。生の赤玉ねぎの薄切りを添えてレモンのくし切りを置くのがウズベキスタンの定番スタイル。(麺は温めた器に盛ると最後まで熱々のまま食べられる。ヴァジャは麺に絡めながら食べることで麺の弾力とソースの旨みが一体になる。ウズベキスタンでは麺の上にソースをかけた後に生の赤玉ねぎをかじりながら食べるスタイルが伝統的で、玉ねぎの辛みがラム肉の旨みを引き立てる。食べ終わった後のスープも最後まで飲むのがラグマン愛好者のスタイル)

ウズベキスタンの国旗
ラグマン(Lagman)はウズベキスタンを代表する麺料理で、強力粉・塩・水・少量の油だけをこねて休ませてから生地を細長く伸ばしながら手でくるくると回転させて独特の弾力と長さを持つ手延べ麺を作り、ラム肉または牛肉・赤・黄ピーマン・トマト・ズッキーニ・じゃがいも・玉ねぎをクミン・コリアンダー・パプリカ・スターアニスで香り高く炒め煮にしたたっぷりのソース(ヴァジャ)とともに盛り付けて食べる、タシケント・サマルカンド・ブハラをはじめウズベキスタン全土のチャイハナ(茶館)・市場の食堂・家庭の食卓で老若男女に日常的に愛される国民食です。ラグマン最大の個性は手延べによって生まれる麺の独特の弾力と不均一な太さにあり、機械製麺や押し出し製麺では生み出せないこの手仕事の食感が複雑なスパイスの香りを持つラム肉のソースと絡み合うことで、中国の麺文化と中央アジアのスパイス料理文化が出会う地点でしか生まれえない唯一無二の一杯を作り出しています。ラグマンの決め手は麺生地を充分な時間休ませることで生地に弾力が生まれて手延べ中に切れにくくなることと、ソースのヴァジャに加えるスパイスを必ずラム肉と野菜を炒めた油の中でじっくりと香りを引き出してから煮込むことで単なる野菜炒め煮を超えた深みのあるソースに仕上げることであり、この二つが揃って初めてサマルカンドの古い市場の食堂やタシケントのチャイハナで食べるラグマンの力強い旨みと食感に近づきます。ウズベキスタンではラグマンは友人との集まり・家族の行事・ゲストのもてなしの場で振る舞われる特別な料理でありながら同時に市場の食堂で日々食べられる日常食でもあるという二重の存在感を持ち、ラグマンを手延べする技術を持つ職人(ラグマンチ)への敬意はウズベキスタンの食文化において特別な位置を占めています。
料理の歴史と背景
ラグマンの起源は中国新疆ウイグル自治区のウイグル族の食文化に遡るとされており、「ラグマン」という名称は中国語の「拉面(ラーミェン=引っ張って作る麺)」に由来するという説が最も有力です。ウイグル族はシルクロードの要衝に位置する中央アジアと中国西部の交差点で生活してきた民族で、中国の麺食文化と中央アジアのラム肉・スパイス料理文化を融合させることで独自のラグマン文化を育みました。シルクロードを通じた交易・移住・文化交流により、ウイグル族のラグマン文化は14〜15世紀のティムール朝時代以降にウズベキスタン・カザフスタン・キルギス・タジキスタンなど中央アジア全域に広まったとされており、各地域の食材・スパイス・調理法と融合することで地域ごとに異なるバリエーションが生まれました。ウズベキスタンではティムール朝の首都として栄えたサマルカンドを中心にラグマンが発展し、サマルカンドの市場(バザール)でラグマンを売るラグマンチ(麺職人)が活躍する光景は中世の旅行記にも記録されています。モンゴル帝国のチンギス・ハンの征服(13世紀)とその後のティムール帝国の時代を経て、シルクロード交易路の復活とともに食文化の交流も深まり、ラグマンは中央アジアの最も重要な麺料理として地域に根付いていきました。
現代のウズベキスタンにおいてラグマンはタシケント・サマルカンド・ブハラ・ナマンガン・フェルガナをはじめ全国のチャイハナ・市場の食堂・家庭の食卓で日常的に食べられており、プロフ(ウズベキスタンのピラフ)・マンティ(蒸し餃子)と並ぶウズベキスタン料理の三大看板料理のひとつとして国際的に広く知られています。ソビエト連邦時代(1924〜1991年)にはウズベキスタンのラグマンがソ連全体の食堂に広まり、中央アジア料理の代表としてモスクワ・レニングラードなどのソ連の主要都市にも浸透しました。1991年のウズベキスタン独立後はシルクロード観光の目的地としてサマルカンド・ブハラへの国際的な旅行者が増加するとともにラグマンも世界の食文化メディアで紹介される機会が増え、「シルクロードの麺料理」として食文化愛好家から高い関心を集めています。日本ではウズベキスタン料理専門店が東京・大阪などの都市部に開店しており、ラグマンはプロフと並んでウズベキスタン料理の顔として提供されています。うどんや中華麺の文化に親しんだ日本人にも手延べ麺の弾力と中央アジアのスパイスの香りが新鮮な驚きとともに受け入れられており、シルクロードの食文化への関心とともに認知度が高まっています。
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