マリの定番マフェのレシピ
マリをはじめとする西アフリカ全域で広く愛される、濃厚なピーナッツバターシチュー「マフェ」。肉の深い旨味とトマトの酸味、そしてピーナッツの香ばしいコクが織りなす、ご飯が止まらなくなる至福の伝統レシピを歴史的背景とともにご紹介します。
材料
- 牛肉(シチュー用・または鶏もも肉) 400g
- 無糖ピーナッツバター(粒のないスムースタイプ) 100g
- 玉ねぎ 1個
- ニンニク 2片
- カットトマト缶 1/2缶(約200g)
- トマトペースト 大さじ3
- サラダ油(またはピーナッツオイル) 大さじ2
- ニンジン 1本
- ジャガイモ(またはサツマイモ) 2個
- キャベツ 1/8玉
- 固形ブイヨン 1個
- 水 約600ml
- 塩 小さじ1強
- 黒こしょう 少々
- カイエンペッパー(一味唐辛子) 小さじ1/2
- 【添え物】
- 白ご飯(またはクスクス) 適量
西アフリカの内陸に位置し、かつて黄金のサハラ交易で栄えた巨大な帝国があった国、マリ共和国。ニジェール川の豊かな恵みと広大なサバナ気候が育むこの地で、日常の食卓からお祝い事まで欠かせない国民的シチューが「マフェ(Maafe / Tigadèguèna)」です。フランス語圏の西アフリカ諸国で広く食べられていますが、そのルーツはマリに住むバンバラ族やマンディンカ族にあると言われています。最大の特徴は、たっぷりの無糖ピーナッツバター(落花生のペースト)を使うこと。牛肉や鶏肉の力強い旨味、トマトの爽やかな酸味、そしてピーナッツの重厚で甘いコクが鍋の中で一つに溶け合い、カレーにも似たドロッとした濃厚なシチューに仕上がります。ひとくち食べれば、その香ばしさと奥深い味わいに魅了され、過酷な労働を乗り切るための活力が体の底から湧き上がってくるのを感じるはずです。日本の家庭にある身近な食材で、西アフリカの情熱的で温かな食卓を完全に再現するレシピと、ピーナッツが繋いだ歴史の物語をご紹介します。
マフェの作り方
◎肉と香味野菜を炒め、旨味のベースを作る
鍋にサラダ油(またはピーナッツオイル)を熱し、一口大に切った牛肉(または鶏肉や羊肉)400gを入れ、表面にしっかりと焼き色がつくまで強火で炒めます。肉の旨味を閉じ込めたら一度取り出し、同じ鍋にみじん切りにした玉ねぎ1個とニンニク2片を加えます。肉の脂を吸わせながら、玉ねぎが透き通り、甘い香りが立つまで中火でじっくりと炒めます。
◎トマトとスパイスで風味を重ねる
玉ねぎが炒まったら、トマトペースト大さじ3とカットトマト缶の半量を加えます。トマトの酸味を飛ばすように油と馴染ませながら炒め、そこに塩、黒こしょう、そしてカイエンペッパー(一味唐辛子)を加えて辛味のアクセントをつけます。取り出しておいたお肉を鍋に戻し、全体をよく絡めます。
◎命の源、ピーナッツバターを溶かし込む
ここで主役の登場です。無糖のピーナッツバター(チャンクなしの滑らかなタイプ)100gをボウルに入れ、お湯または少量のスープでのばしてペースト状にしてから鍋に加えます。固まりのまま鍋に入れるとダマになりやすいため、事前に少し溶いておくのが滑らかなシチューに仕上げる最大のコツです。
◎根菜を加えてじっくりと煮込む
鍋にひたひたになる程度の水と固形ブイヨンを加え、沸騰させます。アクを取ったら、大きめの乱切りにしたニンジン、ジャガイモ(またはサツマイモ)、そしてざく切りにしたキャベツを加えます。蓋をして弱火にし、時々鍋底が焦げ付かないように木べらでかき混ぜながら、お肉と野菜が柔らかくなるまで40〜50分ほどじっくりと煮込みます。
◎とろみがつくまで煮詰めて仕上げる

盛り付けたマフェ
野菜が柔らかくなり、スープの表面にピーナッツの赤い油がうっすらと浮き上がってきたら完成の合図です。蓋を開けて少し水分を飛ばし、全体がもったりとしたシチュー状になるまでとろみをつけます。最後にもう一度味見をして塩で調え、炊きたての白ご飯(またはクスクス)にたっぷりとかけていただきます。
料理の歴史と背景
マフェの歴史を辿ると、西アフリカ一帯に強大な勢力を誇ったマリ帝国の時代に行き着きます。この料理を生み出したとされるマンディンカ族は、優れた商人としてサハラ砂漠の交易ルートを行き来し、彼らの移動に伴ってマフェのレシピもセネガルやガンビア、コートジボワールといった周辺諸国へと広く伝播していきました。当初はピーナッツではなく、現地の種子類をすり潰してとろみをつけていましたが、大航海時代にポルトガル商人によって南米から「落花生(ピーナッツ)」がもたらされると、西アフリカの食文化は劇的な変化を遂げます。サヘル地域(サハラ砂漠南縁の半乾燥地帯)の厳しい気候や痩せた土壌でも力強く育つピーナッツは、たちまち人々の貴重なタンパク源であり脂質源となりました。マリの人々は、この新しい食材を伝統的なシチューの技法と見事に融合させ、現在私たちが知る濃厚で栄養満点のマフェを完成させたのです。
一つのボウルを囲む「テランガ」の精神
西アフリカの食卓には、「テランガ(Teranga)」と呼ばれる深いおもてなしと分かち合いの精神が根付いています。食事の時間は単なる栄養補給ではなく、家族やコミュニティの絆を確かめ合う神聖な儀式です。マフェを食べる際も、大きなボウル(または大皿)の底にご飯をたっぷりと敷き詰め、その上から熱々のマフェをかけ、全員で一つのボウルを囲んで右手で直接食べ合わせるのが伝統的なスタイルです。ピーナッツの香ばしい匂いが立ち上る鍋の音を聴き、とろとろに煮込まれた具材をご飯に絡ませながら頬張る瞬間は、言葉の壁を越えて人々を笑顔にする確かな力を持っています。現地の厨房にカメラを入れて調理風景を記録しているかのような臨場感で、このアフリカ大陸の情熱が詰まった一皿をコトコトと煮込んでみてください。カレーライスとはまた違う、甘くスパイシーで重厚な未知の美味しさが、日本の食卓に新しい風を吹き込んでくれるはずです。
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