マルタの定番パスティッツィのレシピ
リコッタチーズまたはえんどう豆のフィリングをサクサクのフィロ風生地で包んで焼くマルタ共和国の国民的軽食。早朝から深夜まで屋台で売られ続けるマルタ人の魂の食べ物パスティッツィの本格レシピを歴史とともに紹介します。
材料
- 【生地】
- 薄力粉 400g
- 塩 小さじ1
- 水 230〜250ml
- 無塩バター(またはラード) 150g
- 【リコッタフィリング】
- リコッタチーズ 300g
- 卵 2個
- パルメザンチーズ(すりおろし) 大さじ3
- パセリ(みじん切り) 大さじ2
- ナツメグ 少々
- 塩・白胡椒 適量
- 【えんどう豆フィリング】
- 冷凍グリンピース 300g
- 玉ねぎ 1個
- ニンニク 2片
- カレーパウダー 小さじ1
- オリーブオイル 大さじ2
- 塩・黒胡椒 適量
パスティッツィ(Pastizzi)はマルタ共和国の国民的軽食で、バターまたはラードを何層にも折り込んだサクサクの薄い生地にリコッタチーズまたはえんどう豆のフィリングを包み、菱形または円形に成形してオーブンで焼き上げる。マルタの街角には「パスティッツェリア」と呼ばれる専門店が至る所にあり、早朝から深夜まで焼きたてが1個数十セントで売られている。マルタ人は朝食代わりに、昼のつまみに、深夜の帰り道に——一日のどの時間帯にもパスティッツィを食べる。観光客でにぎわうヴァレッタの石畳の路地から漁師の町マルサシュロックまで、パスティッツィのサクサクとした音とバターの香りはマルタの日常音楽の一部だ。地中海の十字路に位置するマルタにフェニキア・アラブ・ノルマン・スペイン・イギリスと幾多の文化が流れ込んだ歴史の中で、このシンプルな生地と具の組み合わせだけがマルタ固有のものとして残った。
パスティッツィの作り方
◎生地を作る
薄力粉400g・塩小さじ1・水230〜250mlをボウルに入れてよく捏ね、耳たぶより少し柔らかい程度の生地を作る。ラップに包んで室温で30分休ませる。(パスティッツィの生地はイーストを使わないシンプルな水生地で、バターを折り込むことで層を作る。水は少量ずつ加えて調整すること。捏ねすぎると生地が固くなりすぎるため、なめらかにまとまったら止める。休ませることでグルテンが落ち着き、後で薄く伸ばしやすくなる)
◎バターを折り込む
室温に戻した無塩バター(またはラード)150gを生地の上に薄く塗り広げる。生地を三つ折りにしてバターを包み、麺棒で薄く伸ばして再び三つ折りにする。この工程を4〜5回繰り返す。生地がベタつき始めたら冷蔵庫で15分冷やしてから続ける。最終的に薄く(2〜3mm)大きく伸ばし、ロール状に丸めてラップに包んで冷蔵庫で30分休ませる。(バターの折り込みがパスティッツィのサクサクとした層の秘密で、この工程を丁寧に行うほど焼き上がりが美しい層になる。本場ではラードを使うことが多く、よりサクサクした食感になる。バターが溶けてきたらすぐに冷蔵庫に戻すこと)
◎リコッタフィリングを作る
リコッタチーズ300gをボウルに入れ、卵2個・パルメザンチーズ(すりおろし)大さじ3・塩小さじ1/2・白胡椒少々・ナツメグ少々・パセリのみじん切り大さじ2を加えてよく混ぜる。(リコッタは水気が多い場合はキッチンペーパーに包んで30分水切りしてから使うと、焼いたときにフィリングが水っぽくならない。パルメザンを加えることで塩気と旨みが増す。フィリングは焼く直前まで冷蔵庫で冷やしておく)
◎えんどう豆フィリングを作る(2種類目)
冷凍グリンピース300gを塩茹でして粗く潰す。フライパンにオリーブオイル大さじ2を熱し、みじん切りにした玉ねぎ1個・ニンニク2片を中火で8〜10分炒める。潰したグリンピース・カレーパウダー小さじ1・塩・黒胡椒を加えて混ぜ、5分炒めて水分を飛ばす。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。(えんどう豆フィリングはリコッタより素朴な味わいでマルタのパスティッツィの2大バリエーションのひとつ。カレーパウダーを加えるのはイギリス統治時代の影響で、マルタのパスティッツィの独自性を示す。フィリングは水気が多いと生地が破れるため十分に炒めて水分を飛ばすこと)
◎成形する
冷蔵庫から取り出したロール状の生地を2〜3cm厚の輪切りにする。切り口を上にして手のひらで押しつぶし、麺棒で直径10〜12cmの円形に伸ばす。中央にフィリングを大さじ1.5〜2のせ、生地の対角を持ち上げて菱形(ダイヤモンド形)になるよう閉じ、縁をしっかりとつまんで閉じる。または半円形に閉じて円形のパスティッツィにする。(菱形が伝統的なリコッタ用、円形(丸型)がえんどう豆用とされることが多いが厳密なルールではない。閉じ目はしっかりと密着させないと焼いている間に開いてフィリングが溢れる)
◎焼く

盛り付けたパスティッツィ
天板にクッキングシートを敷いて成形したパスティッツィを並べる。210℃に予熱したオーブンで20〜25分、全体がこんがりとした黄金色になりサクサクした層が見えるまで焼く。焼きたてをそのままで食べるのが最高だ。(高温でしっかりと焼くことで生地の層がサクサクに仕上がる。焼き色が薄いと生地がべちゃっとした食感になる。食べるときは熱いフィリングに注意すること)
料理の歴史と背景
パスティッツィの起源については複数の説があるが、最も有力なのはアラブ支配時代(870〜1091年)にシチリア経由でマルタに伝わった包み料理の技法がその後のノルマン・スペイン・イタリアの影響を受けながら独自の発展を遂げたという説だ。パスティッツィという名前はイタリア語の「パスタ(生地)」に由来するとされており、地中海各地の包み料理(スペインのエンパナーダ・ギリシャのスパナコピタ・レバノンのファタイヤなど)と共通の技法的ルーツを持つ。リコッタチーズを使うスタイルはシチリアとの強い文化的結びつきを反映しており、えんどう豆フィリングにカレーパウダーを加えるスタイルは1800〜1964年のイギリス統治時代に定着した独自の要素で、両者が共存するパスティッツィはマルタの複雑な植民地史を一皿に凝縮している。
20世紀を通じてパスティッツィはマルタの庶民の食べ物として定着し、特に1960〜70年代の工業化・都市化の波の中でパスティッツェリアが急増した。朝の工場労働者が仕事前に立ち寄り、昼に職人が立ち食いし、夜に若者がクラブ帰りに買うという24時間の消費文化がパスティッツィを中心に形成された。現在のヴァレッタ旧市街には創業100年以上の老舗パスティッツェリアが今も残っており、1個50〜70ユーロセント(約80〜120円)という価格は数十年間ほぼ変わっていない。2004年のマルタのEU加盟以降、観光客の増加によってパスティッツィは国際的な注目を集めるようになり、ロンドン・シドニー・トロントのマルタ系移民コミュニティを通じて世界各地に広まっている。2020年代にはマルタ政府がパスティッツィを含むマルタの食文化のユネスコ申請を検討しており、この小さな島国が誇る最大の食文化遺産として改めてその価値が見直されている。
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