ノルウェーの定番ルーテフィスクのレシピ
乾燥させたタラをアルカリ性の灰汁(水酸化ナトリウム)の水溶液に数日間浸けて独特のゼラチン状の食感に戻し、オーブンまたは蒸し器でゆっくりと加熱してバター・ベーコン・エンドウ豆とともに食べる、スカンジナビア最古の食文化のひとつ。クリスマスの食卓を彩る北欧の哲学を、歴史とともに紹介します。
材料
- ルーテフィスク(市販の処理済み冷凍または真空パック品) 600g
- 塩 適量
- 【マッシュポテト】
- じゃがいも(大) 4個
- バター 40g
- 牛乳(温めたもの) 100ml
- 塩 小さじ1
- 白こしょう 少量
- 【付け合わせ】
- 厚切りベーコン 150g
- 冷凍または缶詰グリーンピース 150g
- バター(溶かしバター用) 60g
- 粒マスタードまたは和辛子 適量
- アクヴァビットまたは白ワイン 適量(食事に合わせて)
ルーテフィスク(Lutefisk)はノルウェーを代表する最も古い伝統料理のひとつで、完全に乾燥させた塩なし干しダラ(ストックフィッシュ)を数日間水で戻した後にアルカリ性の灰汁(ルート・lut)の水溶液または食品用水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の希薄溶液に4〜6日間浸けることで魚のたんぱく質が部分的に分解されてプルプルとした独特のゼラチン状の食感に変化した魚を再び清水で数日間かけてアルカリを抜き、オーブンまたは蒸し器でじっくりと加熱して溶かしバター・ベーコン・マッシュポテト・エンドウ豆とともに食べる、ノルウェー・スウェーデン・フィンランドのクリスマス(ユール)の食卓に欠かせない北欧最古の食文化のひとつです。ルーテフィスクの最大の特徴はその独特の製法が生み出すゼラチン状のプルプルとした食感にあり、この食感は世界中のどの料理にも類似するものがない完全に唯一無二の体験として北欧の人々に「ノルウェーのソウルフード」として深く刻み込まれている一方で、強い臭気とゼリー状の見た目から北欧人の間でさえも「好きか嫌いか」が鮮明に分かれる料理として知られており、スカンジナビア料理の中で最も個性的な存在感を放っています。ルーテフィスクの決め手は灰汁抜きを充分に行ってアルカリ臭を完全に取り除くことと、加熱しすぎて水分が出すぎることでゼラチン状の食感が失われないよう低温でゆっくりと加熱することであり、この二つの工程を丁寧に行うことで初めてベルゲンやトロンハイムの老舗レストランで食べるルーテフィスクのプルプルとした食感と穏やかな旨みを再現できます。ノルウェーではルーテフィスクはクリスマスシーズン(11〜12月)に消費量が急増する季節の料理として位置づけられており、家族が集まるクリスマスイブまたはクリスマスの夕食でルーテフィスクを囲む光景は世代を超えて受け継がれるノルウェーの最も重要な食の儀式のひとつとなっています。
ルーテフィスクの作り方
◎市販のルーテフィスクを入手する(推奨)
ルーテフィスクは灰汁処理済みの冷凍品または真空パック品として北欧食材専門店・スカンジナビア料理を扱う輸入食材店・ネット通販で入手できる。冷凍品は冷蔵庫で24〜48時間かけてゆっくりと解凍する。解凍後に冷水で軽くすすいでから調理に進む。(家庭での灰汁処理は食品用水酸化ナトリウムを使う危険な工程を含むため、強く推奨しない。市販の処理済みルーテフィスクを使うことが安全で確実な方法。日本での入手が難しい場合は北欧料理専門レストランへの問い合わせ、またはオンラインの北欧食材店を探すとよい。ルーテフィスクの代替として塩タラを数日間水で塩抜きしたものを使うと本来のゼラチン状の食感は出ないが、ルーテフィスクの付け合わせ(バター・ベーコン・マッシュポテト・エンドウ豆)の組み合わせを体験することはできる)
◎ルーテフィスクの下処理をする
解凍したルーテフィスク600gの皮と骨を丁寧に取り除く。一人前100〜150g程度に切り分け、キッチンペーパーで表面の水気をやさしく拭き取る。切り分けた切り身に塩をひとつまみふって10分置く。(ルーテフィスクは非常に水分が多く崩れやすいため扱いに注意すること。力を入れすぎるとゼラチン状の身がバラバラになる。皮は加熱すると収縮して身を引っ張るため必ず除いておくこと。骨は小骨が多いため丁寧に除くこと。塩をふることで余分な水分が引き出されて加熱時の水っぽさが軽減される。処理が済んだら調理直前まで冷蔵庫で保存すること)
◎オーブンで加熱する
オーブンを200度に予熱する。耐熱皿にオーブンシートを敷き、ルーテフィスクの切り身を並べる。上からもオーブンシートまたはアルミホイルで覆い、200度で20〜25分加熱する。加熱中に大量の水分が出てくるが、これは正常。加熱後にオーブンシートを外し、切り身をそっとペーパータオルで水気を拭き取って皿に盛り付ける。(ルーテフィスクは高温で加熱しすぎると身が溶けて水だまりになってしまう。200度・20〜25分が目安で、身の厚さによって調整すること。蒸し器を使う場合は中火で15〜18分蒸す方法でも仕上がる。加熱後に大量の水分が出るのは正常な現象で、この水分はソースには使わずに廃棄すること。蒸し焼きにすることで身がプルプルの状態を保ちながら内部まで均一に火が入る)
◎マッシュポテトを作る
じゃがいも4個(大)を皮付きのまま塩水で茹で、やわらかくなったら皮を剥いてマッシャーまたはフォークで丁寧に潰す。バター40g・温めた牛乳100ml・塩小さじ1・白こしょう少量を加えてなめらかなマッシュポテトに仕上げる。(マッシュポテトはルーテフィスクの最も重要な付け合わせ。ルーテフィスク自体の風味が繊細なため、マッシュポテトはしっかりとバターと塩で味をつけることで対比が生まれる。じゃがいもは茹でたてを熱いうちに潰すとなめらかに仕上がる。冷めてから潰すと粘りが出て食感が悪くなる)
◎ベーコンと付け合わせを仕上げる
厚切りベーコン150gを1cm角に切り、フライパンで中火でカリッとするまで炒めて油ごと小鍋に取る。冷凍または缶詰のグリーンピース150gを塩水で温める。バター60gを小鍋で溶かして溶かしバターを準備する。マスタード(粒マスタードまたは和辛子)を小皿に用意する。(ベーコンの脂はルーテフィスクにかけて食べる重要な旨みの源となる。カリカリに炒めてから油ごとルーテフィスクにかけることでスモーキーな香りが加わり、ルーテフィスクの穏やかな旨みと絶妙に組み合わさる。グリーンピースは彩りと甘みを加える定番の付け合わせ。マスタードはルーテフィスクに直接つけて食べると風味が引き立つ)
◎盛り付け

盛り付けたルーテフィスク
大きめの皿にマッシュポテトを盛り、ルーテフィスクを中央に置く。ベーコンと炒め油を全体にかけ、グリーンピースを添える。溶かしバターとマスタードを小皿に別添えする。アクヴァビット(北欧のスピリッツ)または白ワインとともに食べるのがノルウェーの伝統的なスタイル。(ルーテフィスクを食べ慣れていない場合はまず溶かしバターを少量かけてそのままの味を確認してからベーコンの油やマスタードを加えて好みの組み合わせを探すとよい。ルーテフィスクは風味自体は穏やかでバターと塩気によって旨みが引き立てられる料理。アクヴァビットはスカンジナビアのジンに似たスピリッツで、ルーテフィスクとの伝統的な組み合わせとして知られている)
料理の歴史と背景
ルーテフィスクの起源は中世スカンジナビアの保存食文化に遡ります。北大西洋の寒冷な気候はタラの乾燥保存に最適な環境を提供し、ノルウェーの漁師たちは少なくとも9〜10世紀以降、塩を使わずに内臓を取り除いたタラを木の棚に干して完全に乾燥させたストックフィッシュを製造してきました。ルーテフィスクの具体的な起源については複数の伝説があり、最もよく語られるのは干しタラが偶然に木の灰の近くで雨に濡れてアルカリ性の灰汁に浸かったことでゼラチン状に変化したものを試食したところ美味しかったという逸話で、これがルーテフィスク(「灰汁(lut)」+「魚(fisk)」)という料理名の由来とも言われています。文献に記録されたルーテフィスクの最古の記述は16世紀のものとされており、スウェーデンの聖職者オラウス・マグヌスが1555年に著した北欧の民族誌「Historia de Gentibus Septentrionalibus」にルーテフィスクに関する記述があることが確認されています。カトリック教会の肉食禁止の断食期間が年間150日以上に及んでいた中世ノルウェーにおいて、タラは最も重要なたんぱく源であり、ルーテフィスクはその保存と調理の工夫から生まれた文化的産物でした。
現代のノルウェーにおいてルーテフィスクはクリスマスシーズンに全国のスーパーマーケット・魚市場・レストランで大量に販売されており、ノルウェー水産物輸出協議会の統計によると毎年クリスマスシーズンに数千トンのルーテフィスクが消費されています。ベルゲンのブリッゲン地区・トロンハイム・オスロのレストランではクリスマスメニューの中心にルーテフィスクが据えられており、ルーテフィスクを囲むクリスマスの夕食はノルウェー人の最も大切な家族の儀式のひとつとして世代を超えて受け継がれています。ノルウェー移民が多く住むアメリカのミネソタ州・ウィスコンシン州・ミネアポリス周辺では北欧系移民コミュニティの教会やコミュニティセンターで毎年クリスマスシーズンにルーテフィスクのディナーが開催されており、故郷ノルウェーの食文化を守る活動として長年続けられています。日本ではルーテフィスクを提供するレストランはほとんど存在しないものの、北欧文化・デザイン・料理への関心の高まりとともにルーテフィスクの存在が食文化の話題として紹介される機会が増えており、世界で最も独特な食べ物のひとつとしてフードライターや食の冒険好きな日本人の間で強い好奇心を集めています。
地域:ノルウェー(ヨーロッパ › ノルウェー)
料理ジャンル:魚料理・保存食料理
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