イギリスの定番フィッシュアンドチップスのレシピ
イギリスを代表する絶対的な国民食「フィッシュアンドチップス」。ビールを使ったサクサクの衣で包んだ白身魚と、ホクホクの太切りポテト。産業革命期の労働者階級の台頭を支え、現代の音楽やパブカルチャーにまで脈々と受け継がれる、誇り高き英国ソウルフードの本格レシピと歴史的背景をご紹介します。
材料
- 生タラ(またはハドックなど大ぶりの白身魚の切り身) 2切れ
- 男爵いも(またはホクホクしたジャガイモ) 3〜4個
- 小麦粉(魚の打ち粉用) 適量
- 【バッター液(衣)】
- 薄力粉 100g
- ベーキングパウダー 小さじ1
- 塩 ひとつまみ
- よく冷えたビール(エールビールや黒ビール・または炭酸水) 150ml
- 【揚げ油】
- サラダ油(またはラードとのブレンド) 適量
- 【付け合わせ】
- モルトビネガー(麦芽酢・なければ穀物酢で代用) たっぷり
- 塩 適量
- レモン(任意) 1/2個
- マッシーピー(グリーンピースを潰したもの・任意) 適量
フィッシュアンドチップスの作り方
◎チップス(ポテト)の下準備をする
デンプン質が多くホクホクとした品種のジャガイモ(日本では男爵いもが最適)3〜4個を用意します。皮をむき、厚さ1.5センチほどの太めの拍子木切りにします。切ったポテトを冷水に15分ほどさらし、表面の余分なデンプンを洗い流すことで、揚げた時の同士のくっつきや焦げを防ぎます。ザルに上げ、キッチンペーパーで水分を「これでもか」というほど徹底的に拭き取っておくことが、カリッと仕上げるための最初の絶対条件です。
◎極上のバッター液(衣)を作る
フィッシュアンドチップスの命とも言える、ビールを使った「バッター液」を作ります。ボウルに薄力粉100g、ベーキングパウダー小さじ1、塩ひとつまみを入れて軽く混ぜます。そこに、冷蔵庫でキンキンに冷やしたビール(エールビールや黒ビールを使うとより本場らしいコクと色が出ますが、炭酸水でも代用可能)150mlを一気に注ぎ入れます。泡立て器で混ぜすぎず、少しダマが残る程度にサックリと合わせるのがコツです。炭酸の気泡とアルコールが、揚げた時に油の水分を一気に飛ばし、驚くほどサクサクで軽い衣を作り出してくれます。
◎チップスを「二度揚げ」する
鍋にたっぷりの油(現地では伝統的に牛脂やラードが使われますが、サラダ油でも可)を注ぎ、まずは140度の低温に熱します。水分を拭き取ったポテトを入れ、竹串がスッと通るまで6〜8分ほどじっくりと揚げて中まで火を通します。一度網に上げて油を切り、ポテトを数分間休ませます。その後、油の温度を180〜190度の高温に上げ、再びポテトを投入して表面がキツネ色になりカリッとするまで2〜3分揚げます。この二度揚げこそが、外はカリカリ、中はホクホクの完璧な英国チップスを生み出す魔法です。
◎フィッシュを黄金色に揚げる
新鮮なタラ(Cod)やハドックなどの大ぶりの白身魚の切り身を用意し、表面の水分を拭き取ってから薄く小麦粉(分量外)をまぶします。これを先ほど作った冷たいバッター液にたっぷりとくぐらせ、180度の油に静かに滑り込ませます。衣がすぐに固まり、炭酸の気泡がシュワシュワと音を立てて弾けます。途中で一度裏返し、全体が美しい黄金色になり、衣が固くサクッとするまで4〜5分ほど揚げます。
◎モルトビネガーのシャワーで仕上げる

盛り付けたフィッシュアンドチップス
揚げたてのフィッシュとチップスを網に上げてしっかりと油を切り、新聞紙風のクッキングシートなどを敷いたお皿に豪快に盛り付けます。そして、食べる直前に絶対に忘れてはならないのが、イギリスの食卓の魂である「モルトビネガー(麦芽酢)」と塩です。せっかくのサクサクの衣が少しふやけるくらい、酸味の強いモルトビネガーをドバドバと「シャワーのように」振りかけるのが、最も正統派で美味しい食べ方です。

イギリスの国旗
イギリスの食文化と聞いて、誰もが真っ先に思い浮かべる絶対的なアイコン、それが「フィッシュアンドチップス(Fish and Chips)」です。カリッと黄金色に揚がった大ぶりの白身魚(フィッシュ)と、日本のフライドポテトよりも太くてホクホクとしたジャガイモ(チップス)。一見すると非常にシンプルな揚げ物の組み合わせですが、この料理には、大英帝国が近代化へと突き進んだ産業革命の歴史と、そこに生きた人々の汗と涙、そして誇りがたっぷりと油と共に染み込んでいます。金曜日の夜、地元のパブでエールビール片手に仲間と語り合いながら新聞紙に包まれた熱々のフィッシュアンドチップスを頬張る時間は、イギリス人にとって何にも代えがたい至福のひとときです。今回は、日本のキッチンでも「チッピー(地元のフィッシュアンドチップス専門店の愛称)」の本場の味を完全に再現できるよう、衣を極上のサクサク食感に仕上げるための科学的なアプローチと、その奥深いカルチャーの歴史を紐解いていきます。
料理の歴史と背景
フィッシュアンドチップスの誕生は、19世紀中頃のヴィクトリア朝時代に遡ります。東ヨーロッパから移住してきたユダヤ系移民がもたらした「白身魚の揚げ物」と、アイルランドやフランスから伝わったとされる「ジャガイモの揚げ物」。この二つの安価でカロリーの高い食材が、ロンドンのイーストエンドや北部の工業都市で運命的な出会いを果たしました。当時、産業革命の波に乗って農村から都市へと大量に流入した労働者階級の人々にとって、安価で温かく、腹持ちの良いこの料理は、過酷な工場労働を生き抜くためのまさに「命の燃料」でした。文豪チャールズ・ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』や『大いなる遺産』に描かれるような、霧に包まれた薄暗いロンドンの裏路地や、這い上がるように生きる人々の暮らしのすぐ傍には、油の匂いを漂わせる初期のフライド・フィッシュ・ウェアハウス(揚げ魚の倉庫)の存在がありました。フィッシュアンドチップスは、近代イギリスにおける「労働者階級の台頭と誇り」を胃袋から支え、共に成長してきた歴史の証人なのです。
ブリットポップと「チッピー」の誇り
フィッシュアンドチップスの文化は、単なる食事の枠を超えて、イギリスの労働者階級の連帯感やカルチャーと深く結びついています。街角にある「チッピー(Chippy)」と呼ばれる専門店は、近所の人々が集い、情報交換をし、日常の愚痴をこぼし合う大切なコミュニティの場です。この労働者特有の土着的な文化は、現代のイギリス音楽やアートのシーンにも色濃く反映されています。例えば、1990年代にイギリスの音楽シーンを席巻した「ブリットポップ」のムーブメント。イングランド北部の工業都市マンチェスターから彗星のごとく現れたロックバンド「オアシス(Oasis)」などを筆頭に、労働者階級出身の若者たちがギターをかき鳴らし、世界中を熱狂させました。彼らの飾らないライフスタイルや、等身大の言葉で綴られる歌詞の根底には、パブでの喧騒や、仲間と分け合うフィッシュアンドチップスのような、気取らない本物の「英国の日常」の匂いが染み付いています。
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