モンテネグロの定番ニェグシュキ・ステーキのレシピ
モンテネグロの山岳地帯ニェグシで作られる燻製ハム(プルシュート)と羊乳チーズをビーフに詰めて焼き上げる郷土料理。アドリア海の塩風と山の冷気が育んだ食材が主役のニェグシュキ・ステーキの本格レシピを歴史とともに紹介します。
材料
- 牛ロースまたはサーロイン(厚さ2〜2.5cm) 4枚(各200〜220g)
- ニェグシュキ・プルシュート(なければプロシュット・クルードまたは生ハム) 薄切り8枚
- スカコムルジンチーズ(なければペコリーノ・フェタ・またはカシュカヴァル) 120g
- 塩・黒胡椒 適量
- サラダ油 大さじ1
- バター 大さじ2
- 【ソース】
- ニンニク 2片
- 白ワイン 100ml
- 生クリーム 100ml
- 塩・黒胡椒 適量
- バター 大さじ1
- 【付け合わせ・任意】
- じゃがいも・ズッキーニ・パプリカ(ロースト用) 適量
- レモン 1個
- ローズマリー・タイム 適量
ニェグシュキ・ステーキ(Njegušku Steak / Njeguški Steak)はモンテネグロが誇るビーフ料理で、牛肉の薄切りまたは厚切りロースにモンテネグロ産の燻製ハム「ニェグシュキ・プルシュート」と羊乳チーズ「スカコムルジン」を詰めてフライパンまたはグリルで焼き上げる。ニェグシュキとはモンテネグロの首都ポドゴリツァから北に向かったロフチェン山の麓に位置する小さな村の名前で、同国の民族的英雄・詩人ペタル二世ペトロヴィッチ・ニェゴシュを輩出した歴史ある地だ。この村で作られる燻製ハムとチーズはモンテネグロの食文化の最高峰として知られ、その名を冠したステーキはモンテネグロ全土のレストランで最も注文されるメインディッシュとなっている。アドリア海の塩風と山岳地帯の冷気の中で長期熟成されたプルシュートの深い燻香とチーズの濃厚さが牛肉の旨みと溶け合う瞬間——これがモンテネグロという国の地理と食文化のすべてを体現している。
ニェグシュキ・ステーキの作り方
◎肉の下準備をする
牛ロース肉またはサーロイン(厚さ2〜2.5cm)4枚(各200〜220g)を用意する。各ステーキの厚みの中央に包丁で水平に切り込みを入れ、ポケット状の空洞を作る(端まで切り抜かないよう注意)。両面に塩・黒胡椒をふり、10〜15分おいて室温にもどす。(ポケットの大きさはフィリングを十分に詰められる大きさにするが、端まで切り抜くとフィリングが焼いている間に溶け出してしまう。切り込みは肉の厚みの8割程度まで入れるのが目安。室温に戻すことで均一に火が通る)
◎フィリングを作る
ニェグシュキ・プルシュート(なければイタリアのプロシュット・クルード・スペインのハモンセラーノ・または国産の生ハム)薄切り8枚を半分に折りたたむ。スカコムルジンチーズ(なければペコリーノロマーノ・フェタ・またはカシュカヴァル)120gを1cm角に切るか粗く崩す。各ステーキのポケットに生ハム2枚とチーズ30gを詰め込み、爪楊枝または竹串で口を閉じる。(ニェグシュキ・プルシュートはモンテネグロ固有の長期燻製熟成ハムで、塩気と燻香のバランスがイタリアのプロシュットとは異なる。代用品はプロシュット・クルードが最も風味が近い。チーズは焼いたときに溶けやすいものを選ぶこと。フィリングを詰めすぎると口が閉じられないため七分目を目安に)
◎フライパンまたはグリルで焼く
鉄製のフライパンまたはグリルパンを強火でしっかりと熱し、サラダ油大さじ1・バター大さじ1を加える。フィリングを詰めたステーキを入れ、強火で片面3〜4分、触らずに焼く。表面に肉汁が滲んできたら裏返し、弱めの中火にしてさらに3〜4分焼く。爪楊枝を抜いて取り出し、アルミホイルで包んで5分休ませる。(強火でしっかりと焼き色をつけることが表面の香ばしさの源。フィリングが入っているため中心まで火を通すには少し時間がかかる。厚さと焼き加減に応じて焼き時間を調整し、ミディアム程度の仕上がりが最もチーズが溶けた状態になる。休ませることで肉汁が落ち着いてジューシーに仕上がる)
◎ソースを作る
肉を取り出した後のフライパンに残った肉汁にニンニク2片(みじん切り)を加えて中火で30秒炒め、白ワイン100mlを加えてアルコールを飛ばす。生クリーム100mlを加えて弱火で2〜3分煮詰め、塩・黒胡椒で味を調える。バター大さじ1を加えてソースに光沢を出す。(フライパンに残った肉汁とチーズの溶け出した旨みがソースの核心になる。白ワインがない場合はチキンブロス100mlで代用できる。ソースは煮詰めすぎず、スプーンの背に薄くコーティングされる程度の濃度が理想)
◎盛り付ける

盛り付けたニェグシュキ・ステーキ
温めた皿にステーキを盛り、ソースを周囲にかける。付け合わせにはモンテネグロ式のロースト野菜(じゃがいも・ズッキーニ・パプリカのオーブン焼き)または茹でたじゃがいも・野菜のグリルを添える。ロフチェン山の麓のレストランではポレンタ(とうもろこしの練り粥)やリゾットを添えることも多い。レモンのくし切りとフレッシュハーブ(ローズマリー・タイム)を飾る。
料理の歴史と背景
ニェグシュキ・ステーキを理解するにはニェグシュキ・プルシュートとニェグシュキ・シル(チーズ)という二つの食材の歴史から始める必要がある。ニェグシュキ村はロフチェン山(標高1749m)の麓に位置し、アドリア海からの塩風と山岳地帯の乾燥した冷気という特殊な気候条件が交わる場所にある。この自然環境が豚肉の塩漬け熟成に理想的な条件を生み出し、少なくとも数百年前からニェグシュキ村では燻製ハムの製造が行われてきた。伝統的なプルシュートは塩漬けした豚モモ肉を海塩で数週間処理した後、冷気の中でゆっくりと乾燥熟成させて完成させる。このプルシュートとともに羊乳から作るスカコムルジンチーズもニェグシュキ村の特産品として知られており、両者を合わせることがモンテネグロ料理の最上のもてなしとされてきた。
ニェグシュキ・ステーキという料理形式が確立されたのは20世紀後半のユーゴスラビア時代とされており、モンテネグロの観光業の発展とともにレストラン料理として洗練されていった。ニェグシュキ村はモンテネグロ・オスマン戦争を戦い抜いた山岳民族の聖地であり、1851年まで続いたペトロヴィッチ・ニェゴシュ家の統治の中心地でもあった。19世紀の詩人・統治者ペタル二世ペトロヴィッチ・ニェゴシュの叙事詩「山の花環」はモンテネグロ文学の最高傑作として今も読み継がれており、その生地ニェグシュキ村の名を冠した食材と料理は文化的・民族的誇りと結びついている。2006年のセルビア・モンテネグロからの独立後、モンテネグロは観光立国としての発展を目指す中でニェグシュキ・プルシュートのEU地理的表示保護(PGI)登録を申請し2015年に認められた。現在コトル旧市街やブドヴァのリゾートエリアのレストランではニェグシュキ・ステーキはモンテネグロ料理の代表格として観光客に提供され続けており、アドリア海クルーズの寄港地モンテネグロで最も記憶に残る一皿として旅行者の間で語られている。
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