リトアニアの定番ツェペリナイのレシピ
生じゃがいもと茹でじゃがいもを合わせてすりおろした生地に豚ひき肉を詰めて飛行船形に成形し、塩水でじっくりと茹でてからベーコンとサワークリームのソースをかける、リトアニア全土の家庭とレストランが誇る主食。じゃがいも文化が生んだ素朴にして重厚な一品を、歴史とともに紹介します。
材料
- 【じゃがいも生地】
- じゃがいも(男爵またはメークイン) 1kg
- 塩 小さじ1
- 【豚ひき肉の具材】
- 豚ひき肉 300g
- 玉ねぎ 1個
- ニンニク 2片
- 塩 小さじ1
- 黒こしょう 小さじ1/2
- マジョラムパウダー(またはタイム) 小さじ1/2
- 【ベーコンと玉ねぎのソース】
- 厚切りベーコン 150g
- 玉ねぎ 1個
- 塩・黒こしょう 適量
- 【仕上げ】
- サワークリーム 200g
- フレッシュディルまたはパセリ 適量
- 塩(茹で湯用) 大さじ2
ツェペリナイ(Cepelinai、単数形:ツェペリナス Cepelinас)はリトアニアを代表する伝統料理で、生のじゃがいもをすりおろして余分な水分とでんぷんを絞り出したものと茹でてつぶしたじゃがいもを合わせた生地を手で楕円形に広げ、豚ひき肉・玉ねぎ・スパイスを合わせた具材を中央に包んで端を閉じながら全長10〜15cmの飛行船(ツェッペリン飛行船)に似た楕円形に成形し、塩水でじっくりと25〜30分茹でてからラードで炒めたベーコンと玉ねぎのソース・たっぷりのサワークリームをかけて食べる、ヴィリニュスをはじめリトアニア全土の家庭・レストラン・学校の食堂で老若男女に深く愛されるリトアニア最高位の国民食です。ツェペリナイ最大の個性はじゃがいもの生地とひき肉の具材という素材のシンプルさとは裏腹に調理に要する技術と時間の重さにあり、生じゃがいものすりおろしから水分と澱粉の分離・茹でじゃがいもとの配合・成形・茹でという一連の工程をすべて丁寧に行ってこそ生まれる生地のもちもちとした弾力と薄い外皮・肉汁を閉じ込めた内部の豊かな食感はリトアニア料理の中でも最も熟練を要する料理のひとつとして知られています。ツェペリナイの決め手は生じゃがいもをすりおろした後に必ずさらしまたはキッチンペーパーで水分を充分に絞り出してでんぷんを分離させてから茹でじゃがいもと合わせることで生地が成形中に崩れず茹でているときに溶けない適切な硬さと粘りを得ることと、一個あたりのサイズを均一に揃えることで茹で時間が均一になり生の部分が残らないように仕上げることであり、この二つの工程を丁寧に行うことで初めてヴィリニュスの家庭やリトアニアの地方の食堂で食べるツェペリナイの満足感ある一品に近づきます。リトアニアでは「ツェペリナイを食べればリトアニアがわかる」という言葉があるほどこの料理はリトアニア人の食のアイデンティティの核心に位置しており、クリスマス・復活祭・家族の集まり・週末の特別な食事として愛されながらも同時に毎日の学校給食・職場の食堂に登場する日常食でもあるという二重の存在感を持ち続けています。
ツェペリナイの作り方
◎じゃがいも生地を作る
じゃがいも(男爵またはメークイン)1kgを半量(500g)の皮を剥いてすりおろし、さらし布またはキッチンペーパーで包んでしっかりと絞り、水分(じゃがいも液)を別の容器に取っておく。絞り出したじゃがいも液を5分静置するとでんぷんが底に沈殿するので、上澄みの液だけを捨ててでんぷんをすりおろしたじゃがいもに戻す。残り500gのじゃがいもを皮付きのまま茹でて皮を剥き、熱いうちにマッシャーで完全になめらかに潰す。すりおろした生じゃがいも(でんぷん戻し済み)と潰した茹でじゃがいもを大きなボウルで合わせ、塩小さじ1を加えてよく混ぜる。(でんぷんを戻す工程はツェペリナイの生地がばらけずにまとまるための最重要工程。でんぷんが生地の接着剤の役割を果たす。この工程を省略すると茹でているときに生地が溶けてしまう。生じゃがいもと茹でじゃがいもの比率は1:1が基本。生じゃがいもが多すぎると生地が固くなりすぎ、茹でじゃがいもが多すぎるとべたついて成形しにくくなる。じゃがいもは男爵のようにでんぷん質が多い品種を選ぶと生地がまとまりやすい)
◎ひき肉の具材を作る
豚ひき肉300g・玉ねぎ1個(極細みじん切り)・ニンニク2片(すりおろし)・塩小さじ1・黒こしょう小さじ1/2・マジョラムパウダー小さじ1/2(またはタイム)をボウルに入れてよく練り混ぜる。(豚ひき肉は脂肪分が20〜25%程度のものを選ぶと茹でたときに肉汁が豊かに出てジューシーに仕上がる。脂肪分が少なすぎると具材がパサパサになる。玉ねぎは極細みじん切りにすることで具材全体に均一に旨みが行き渡る。マジョラムはリトアニア料理に欠かせない定番ハーブで省略するとリトアニアらしさが薄れる。日本では乾燥マジョラムがスーパーのハーブコーナーで入手できる。タイムで代用可能。具材は使う直前まで冷蔵庫で冷やしておくと成形時に生地の中に包みやすくなる)
◎飛行船形に成形する
濡らした手でじゃがいも生地を約120〜150g(握り拳大)取り、手のひらで平たい楕円形(直径12〜15cm)に広げる。中央に豚ひき肉の具材を大さじ山盛り1〜2杯(約50g)のせる。生地の端を持ち上げながら丁寧に具材を包み込み、端を互いにしっかりとくっつけながら全長12〜15cm・直径5〜6cmの飛行船(フットボール)形に整える。同じ要領でツェペリナイを8〜10個成形する。(濡らした手で作業することで生地が手にくっつくのを防げる。生地は厚みが均一になるよう広げること。厚みにムラがあると茹で時間が不均一になり厚い部分が生のまま仕上がる。具材を包むときは具材が生地の端まで来ないよう中央に収めること。端まで具材が来ると閉じたときに端が開いて茹でているときに具材が出てしまう。成形後すぐに茹でない場合はラップをかけて乾燥を防ぐこと)
◎塩水で茹でる
大きな鍋にたっぷりの水を沸騰させ、塩大さじ2を加える。成形したツェペリナイを2〜3個ずつ丁寧に鍋に入れ(一度に入れすぎると鍋の温度が下がる)、沸騰が戻ったら中火に落として25〜30分茹でる。茹でている間は鍋底にくっつかないよう時々やさしく木べらで動かす。ツェペリナイが浮き上がってきてから10分後が仕上がりの目安。(ツェペリナイは成形後すぐに茹でること。放置すると生地が乾燥して表面が割れる。茹でているときに生地が溶けて形が崩れる場合はでんぷんが不足しているサイン。でんぷんを追加するか片栗粉大さじ1〜2を生地に混ぜ込んで再度成形すること。沸騰させ続けると表面が割れやすくなるため中火のふつふつとした状態を保つこと。茹で上がりの確認は竹串を中央に刺して生地がついてこない状態)
◎ベーコンとサワークリームのソースを作る
厚切りベーコン150gを1cm角に切り、フライパンで中火でカリカリになるまで炒める。みじん切りの玉ねぎ1個を加えてさらに5〜7分、きつね色になるまで炒めて塩・黒こしょうで味を調える。サワークリーム200gを別の器に用意する。(ベーコンのソースはツェペリナイに欠かせないリッチな付け合わせ。ラードで代用するとよりリトアニアらしい風味になる。サワークリームはたっぷりとかけることでツェペリナイのじゃがいも生地の淡白な味に乳のコクと酸みが加わり全体がひとつにまとまる。ベーコンは炒めた油ごとソースとして使うこと。油が旨みの核心となる)
◎盛り付け

盛り付けたツェペリナイ
深めの皿にツェペリナイを2〜3個盛り、熱々のベーコンと玉ねぎのソースを全体にたっぷりとかける。サワークリームをたっぷりとのせ、フレッシュのディルまたはパセリを散らして仕上げる。(ツェペリナイはとてもボリュームがあるため一人分2個が標準的。食欲旺盛な場合は3個。茹でたてを熱々のうちに盛り付けること。冷めるとじゃがいも生地が固くなって食感が変わる。残ったツェペリナイはフライパンにバターを熱して両面をこんがりと焼き直すと外がカリッとした新たな美味しさが楽しめる)
料理の歴史と背景
ツェペリナイの起源はリトアニアにじゃがいもが普及した18世紀後半以降に遡るとされており、じゃがいもがヨーロッパ全体に広まった時代にリトアニアの農民がじゃがいもを主食として取り入れる中で生まれた郷土料理です。「ツェペリナイ」という名称は20世紀初頭にドイツの飛行船開発者フェルディナント・フォン・ツェッペリン(Ferdinand von Zeppelin)が製作した葉巻型の飛行船「ツェッペリン号」に由来しており、1900〜1910年代にツェッペリン飛行船がヨーロッパ中の話題になった時代にこの料理の飛行船に似た楕円形の形状がその名前と結びついたとされています。それ以前はリトアニアで「ディドジクリナイ(didžkukuliai・大きな団子)」と呼ばれていた料理と同一または類似の料理として知られており、じゃがいも団子にひき肉を詰めるという基本スタイルはリトアニア・ラトビア・ポーランド・ベラルーシにまたがるバルト・東ヨーロッパ農民料理の共通の遺産として発展してきたものです。リトアニアのじゃがいも消費量はヨーロッパでも有数の水準にあり、ツェペリナイはじゃがいもをいかに調理して主食にするかというリトアニア農民の何世代にもわたる知恵の結晶として、バルト諸国の食文化の中で最も個性的な料理のひとつとして評価されています。
現代のリトアニアにおいてツェペリナイはヴィリニュス・カウナス・クライペダをはじめ全国のリトアニア料理レストラン・学校給食・家庭の食卓で定番料理として根強く愛されており、リトアニアを訪れる外国人旅行者がリトアニア料理の中で最も印象的だったと挙げることが多い料理のひとつとなっています。2004年のリトアニアのEU加盟とともに欧州の食文化メディアでバルト諸国料理への関心が高まり、ツェペリナイは「バルトの国民食」として欧米の食専門メディアで紹介される機会が増えました。リトアニアのバスケットボールへの熱狂的な文化とともに国際的な知名度が上がるなかでツェペリナイも「リトアニアといえばこの料理」として認知されるようになり、リトアニア系移民が多く暮らすアメリカ・カナダ・オーストラリアのコミュニティでも大切に受け継がれています。日本ではリトアニア料理はまだほとんど知られていないものの、バルト三国への関心の高まりとともにツェペリナイの独特の見た目(飛行船形のじゃがいも団子)と名前の由来(ツェッペリン飛行船)への好奇心が食文化ライターや旅行好きな日本人の間で少しずつ広がっており、じゃがいも料理文化に親しんだ日本人にも受け入れやすい料理として紹介される機会が増えています。
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