チュニジアの定番ブリックのレシピ
北アフリカ・チュニジアの食卓に欠かせない、パリパリの皮から半熟卵がとろけ出す絶品揚げ物「ブリック」。春巻きの皮とツナ缶を使って日本の家庭で簡単に再現できる本格レシピを、ユニークな現地の風習や歴史的背景とともにご紹介します。
材料
- 春巻きの皮(現地のマルスーカの代用) 4枚
- 卵 4個
- ツナ缶(オイルまたは水煮をしっかり絞る) 1缶
- ジャガイモ 1個
- 玉ねぎ 1/4個
- イタリアンパセリ(または普通のパセリ) 適量
- ケッパー(あれば) 大さじ1
- ピザ用チーズ(または粉チーズ) 適量
- 塩 少々
- 黒こしょう 少々
- サラダ油(揚げ焼き用) 適量
- 【添え物・調味料】
- レモン(くし切り) 1個分
- ハリッサ(チュニジアの辛味調味料・なければ豆板醤とクミンとオリーブオイルで代用) 適量
ブリックの作り方
◎具材(フィリング)の準備をする
ブリックの美味しさは、具材の水分コントロールにかかっています。ジャガイモ1個は皮をむいて柔らかく茹で、マッシャーでなめらかに潰して粗熱を取ります。玉ねぎ、イタリアンパセリ、そして酸味のアクセントとなるケッパーを極細かいみじん切りにします。ボウルに潰したジャガイモ、みじん切りにした野菜類、そして油(または水)を徹底的に絞りきったツナ缶を加えます。ピザ用チーズ(または粉チーズ)、塩、黒こしょうを加え、全体が均一なペースト状になるまでしっかりと混ぜ合わせておきます。
◎皮を広げ、卵のための「土手」を作る
チュニジアの「マルスーカ」という専用の極薄生地の代わりに、日本では春巻きの皮を使用します。まな板の上に春巻きの皮をひし形(角が手前に来るよう)に広げます。皮の中央より少し手前の位置に、先ほど混ぜ合わせた具材をドーナツ状(またはU字型)に置きます。これが、後から割り入れる卵をせき止める「土手」の役割を果たします。
◎卵を割り入れ、素早く包み込む
具材で作った土手の中央のくぼみに、新鮮な卵を一つ静かに割り入れます。黄身を崩さないように細心の注意を払いながら、春巻きの皮の手前の角を奥の角に向かってパタンと折りたたみ、大きな三角形を作ります。白身が外に漏れ出ないように素早く縁に水をつけ、中の空気を優しく押し出しながらしっかりと閉じます。卵を包んだ後は生地が破れやすくなるため、包んだらすぐに油に投入するのが成功の秘訣です。
◎高温で一気にキツネ色に揚げる
大きめのフライパンに1〜2センチほどの深さのサラダ油を注ぎ、中高温(約170〜180度)に熱します。包み終わったブリックを静かに油に滑り込ませます。半熟卵のトロトロ感を残すため、長時間の加熱は禁物です。片面が美しいキツネ色になり、パリッとしたら裏返し、両面合わせて2〜3分ほどの短時間で一気に揚げ焼きにします。表面の皮がサクッと固まり、中の白身に火が通って黄身がまだ柔らかい絶妙なタイミングで油から引き揚げます。
◎レモンを絞り、熱々のうちにかぶりつく

盛り付けたブリック
網に上げてしっかりと油を切ったら、すぐにお皿に盛り付けます。チュニジア料理に欠かせない新鮮なレモンのくし切りを添え、食べる直前にこれでもかというほどたっぷりと果汁を絞りかけます。手で持ち、火傷に注意しながら、サクサクの皮ととろける卵の奇跡のハーモニーを堪能します。

チュニジアの国旗
地中海に面した北アフリカの美しい国、チュニジア。アラブ、ベルベル、そしてフランスの文化が交差するこの国で、屋台から高級レストラン、そして家庭の食卓に至るまで、あらゆる場所で愛されている国民的軽食が「ブリック(Brik)」です。極薄の生地でツナやマッシュポテト、パセリ、そして生の卵を丸ごと一個包み込み、多めの油でサクッと揚げたこの料理は、チュニジアの食文化を語る上で絶対に外すことのできないマスターピースです。ナイフやフォークは使わず、熱々の揚げたてに新鮮なレモン果汁をたっぷりと絞り、手で掴んで豪快にかぶりつくのがチュニジア流。パリッとした心地よい音の後に、中から濃厚な半熟の黄身がトロリと溢れ出す瞬間は、まさに至福のひとときです。今回は、日本のスーパーで手に入る身近な食材を使って、地中海の陽気な風を感じる極上のブリックを完璧に再現するレシピを紐解いていきましょう。
料理の歴史と背景
ブリックの歴史を辿ると、かつて地中海一帯を支配したオスマン帝国の食文化に行き着きます。トルコ料理には「ボレク(Börek)」と呼ばれる、ユフカという薄い生地で具材を包んで焼く、あるいは揚げる料理が存在し、これが北アフリカへと伝播する過程で独自の進化を遂げました。チュニジアでは、この生地が「マルスーカ(Malsouka)」と呼ばれる紙のように薄い円形のクレープ生地へと洗練され、中身も地中海沿岸ならではのツナやケッパー、そして新鮮な卵を使ったものへと変化していきました。特に、イスラム教の神聖な断食月である「ラマダン」の期間中、日没後に初めて口にする食事(イフタール)の席において、栄養満点で胃袋を優しく満たしてくれる熱々のブリックは絶対に欠かせない存在です。街のあちこちにブリックを揚げる屋台が立ち並び、油の弾ける香ばしい匂いが漂い始めると、チュニジアの人々は一日の断食の終わりと、家族団らんの時間の始まりを感じるのです。
半熟卵と「花婿の試練」
チュニジアにおいて、ブリックは単なる美味しい軽食であるだけでなく、非常にユーモア溢れる文化的伝統も担っています。結婚を控えた男性が初めて婚約者の実家を訪れ、未来の義母の料理をいただく際、必ずと言っていいほどこの「卵入りのブリック(Brik à l’oeuf)」が振る舞われます。これは、義理の母親から花婿への「試練」なのです。花婿は、手で持った熱々のブリックを、中の半熟卵を一切こぼすことなく、顎や服を汚さずに綺麗に食べ切らなければなりません。もしも黄身をポタポタとこぼしてしまえば、「この男は教養がなく、娘を任せるには頼りない」と判断されてしまうという恐ろしい(そして微笑ましい)ジンクスがあるのです。綺麗に食べるコツは、まず角の部分を一口かじり、そこから中の黄身を「ズズッ」と静かに吸い込むようにすること。チュニジアの男性たちは皆、この日のためにブリックを美しく食べる練習を密かに重ねていると言われています。
ハリッサが運ぶ地中海の情熱
ブリックをさらに本格的な現地の味に近づけるために、絶対に欠かせない調味料が「ハリッサ(Harissa)」です。唐辛子をベースに、ニンニク、コリアンダー、キャラウェイ、クミンなどのスパイスとオリーブオイルを練り合わせたこの真っ赤なペーストは、チュニジアの食卓の魂とも言える存在です。ブリックの具材にあらかじめ少量のハリッサを混ぜ込んでおくか、食べる際に少しずつ付けながら味わうことで、ツナと卵のマイルドな味わいの中に、地中海の太陽のような鮮烈な辛味とスパイスの奥深い香りが一気に広がります。日本でハリッサを入手するのは以前より簡単になりましたが、もし手元にない場合は、少量の豆板醤にクミンパウダーとオリーブオイルを混ぜ合わせることで、雰囲気を近づけることが可能です。パリパリに揚がった黄金色の皮に、冷たいレモンの酸味、とろける黄身のコク、そしてハリッサの情熱的な刺激。異なる食感と温度、味覚が口の中で完璧なオーケストラを奏でるこの地中海の至宝を、ぜひご自宅のキッチンで揚げたてで味わってみてください。
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