ルーマニアの定番サルマーレのレシピ
豚ひき肉・米・玉ねぎ・ディルを合わせた具材を塩漬けキャベツの葉で一本一本丁寧に巻き、サワークリームとトマトソースとともにオーブンでじっくりと煮込む、クリスマス・復活祭・祝いの席に欠かせないルーマニアの国民食。酸味と旨みが溶け合う深い味わいを、歴史とともに紹介します。
材料
- 塩漬けキャベツ(ザワークラウト・丸ごと) 1個
- 豚ひき肉 500g
- 生米 80g
- 玉ねぎ 2個
- 卵 1個
- ディル(生・みじん切り) 大さじ2(乾燥の場合は小さじ1)
- タイム 小さじ1
- パプリカパウダー 小さじ1
- 黒こしょう 小さじ1/2
- 塩 小さじ1と1/2
- サラダ油 大さじ2
- スモークポーク(スモークベーコンまたはスモークポークリブ) 200g
- カットトマト缶 400g
- 水 300ml(トマトソース用)+適量(煮込み用)
- 砂糖 小さじ1
- サワークリーム 適量(添え物)
- マンマリガ(ポレンタ)またはパン 適量(添え物)
- 生のディル 適量(仕上げ)
サルマーレ(Sarmale)はルーマニアを代表する詰め物料理で、豚ひき肉・米・玉ねぎ・ディル・タイムを合わせた具材を塩漬けキャベツ(ザワークラウト)の葉または葡萄の葉で一本一本ていねいに巻いてロール状にし、残ったキャベツの葉・スモークポーク・トマトソースとともに鍋またはオーブンで数時間かけてじっくりと煮込むことで塩漬けキャベツの酸みと豚肉の旨み・米のふっくらとした食感・ハーブの香りがひとつに溶け合った深みのある一品に仕上がる、クリスマス(クラチュン)・復活祭(パシュティ)・結婚式・洗礼式などルーマニアのあらゆる祝宴の食卓に欠かせない国民的料理です。サルマーレ最大の個性は塩漬けキャベツが持つ複雑な発酵の酸みが長時間の加熱を経て穏やかになりながら豚肉の脂の旨みと混ざり合うことで生まれる独特のコクにあり、同じキャベツの肉巻きでもフレッシュなキャベツを使う料理では決して出せないこの発酵由来の深みこそがサルマーレをバルカン半島で最も愛される詰め物料理のひとつたらしめています。サルマーレの決め手は具材に加える生米を炒めずにそのまま使うことで煮込む過程に米が汁をたっぷりと吸ってふっくらと膨らみ具材全体をひとつにまとめることと、スモークポーク(燻製豚肉)を鍋の底と側面に敷き詰めて煮込むことでロール全体にスモーキーな香りをまとわせることであり、この二つが揃って初めてブカレストの家庭やルーマニアの田舎の祖母の台所で食べるサルマーレの味に近づきます。ルーマニアではサルマーレはクリスマスイブの夜に家族全員が食卓を囲んでサワークリームをたっぷりとかけて食べる料理として最も強く記憶に刻まれており、この料理を食べるたびに祖母や母親の台所の風景が呼び起こされるという証言が世代を超えて繰り返されるほど、サルマーレはルーマニア人の食のアイデンティティの核心に位置する料理です。
サルマーレの作り方
◎塩漬けキャベツを準備する
塩漬けキャベツ(ザワークラウト・丸ごとまたはブロック)1個から葉を1枚ずつていねいに剥がし、巻きやすい大きさ(手のひら大・12〜15cm角程度)に切り揃える。小さすぎる葉や破れた葉は捨てずに鍋敷き用として取っておく。塩気が強い場合は流水で軽くすすいでから水気を絞る。(丸ごとの塩漬けキャベツはルーマニア食材店・東欧系食材店・一部のスーパーで入手できる。入手できない場合はフレッシュなキャベツの葉を熱湯で3〜4分茹でてやわらかくしてから代用できる。ただし塩漬けキャベツの発酵の酸みはフレッシュキャベツでは再現できないため、その場合はトマトソースにレモン汁大さじ2を加えて酸みを補うとよい。葉は均一な厚さになるよう、芯の厚い部分を包丁で薄く削いでおくと巻きやすくなる)
◎具材を合わせる
玉ねぎ2個をみじん切りにして、フライパンにサラダ油大さじ2を熱して中火で8〜10分、透明感が出てしんなりとするまで炒め、粗熱を取る。大きめのボウルに豚ひき肉500g・炒めた玉ねぎ・生米80g(洗わずそのまま)・卵1個・ディル(生・みじん切り)大さじ2・タイム小さじ1・黒こしょう小さじ1/2・パプリカパウダー小さじ1・塩小さじ1を入れ、全体がひとつにまとまるまでよく練り混ぜる。(生米は洗わずにそのまま加えることで煮込む過程に煮汁をしっかりと吸ってふっくらと膨らみ、具材全体をまとめる接着剤の役割を果たす。玉ねぎは必ず炒めてから加えること。生の玉ねぎを加えると火の通りにムラが出る。ディルはサルマーレに欠かせないルーマニアのハーブ。乾燥ディルの場合は小さじ1に減量する。具材はよく練ることでひき肉のたんぱく質が結着して巻いたときにバラバラになりにくくなる)
◎キャベツの葉で巻く
キャベツの葉を作業台に広げ、葉の中央より少し下に具材を大さじ山盛り1杯(40〜50g)置く。下の葉を具材の上に折りたたみ、両サイドを内側に折り込みながらしっかりと巻き上げてロール状にする。同じ作業を繰り返し、具材がなくなるまでロールを作る(20〜25本分)。(巻くときは具材を葉の端まで詰め込まずに両端に1〜2cmの余白を作ること。余白がないと煮込むときに米が膨らんでロールが破れる。巻きが緩いとほどけて形が崩れるため、しっかりと締めること。最初の数本はうまく巻けなくても練習のつもりで続けること。慣れると一定のリズムで巻けるようになる。形が崩れたものは鍋の隙間に詰めて同様に煮込める)
◎鍋に重ねて煮込む
大きめの鍋またはダッチオーブンの底に取っておいた小さなキャベツの葉・スモークポーク(スモークベーコンまたはスモークポークリブ)200gを敷き詰める。サルマーレを隙間なく縦に並べてぎっしりと詰め、上からもキャベツの葉とスモークポークで覆う。カットトマト缶400g・水300ml・砂糖小さじ1・塩小さじ1/2を混ぜたトマトソースを全体に注ぎ、サルマーレが浸かる程度の水位になるまで水を足す。強火でひと煮立ちさせてから弱火に落とし、蓋をして最低2時間、できれば3〜4時間、サルマーレが完全に柔らかくなるまでじっくりと煮込む。途中で水分が少なくなれば水を足す。(スモークポークはサルマーレ全体にスモーキーな香りを移す重要な役割を果たす。スモークベーコン・スモークソーセージ・燻製ポークリブのいずれでも代用できる。鍋の代わりに160度のオーブンで2〜3時間煮込む方法でも仕上がる。煮込み時間が長ければ長いほど味が深まるため、前日に作り置きして翌日温め直すと格段に美味しくなる。ルーマニアの家庭では「2日目・3日目がいちばん美味しい」と言われる)
◎盛り付け

盛り付けたサルマーレ
深めの皿にサルマーレを3〜4本並べ、煮汁をたっぷりとかける。サワークリームを大きくひとすくいのせ、生のディルを散らして仕上げる。ルーマニアの伝統的なスタイルではポレンタ(マンマリガ)またはカリカリのパンとともに食べる。(サワークリームはサルマーレには欠かせない付け合わせ。たっぷりとかけることで酸みがまろやかになりコクが増す。マンマリガ(コーングリッツのポレンタ)を添えるとよりルーマニア色が強まる。サルマーレは冷蔵庫で4〜5日間保存でき、温め直すたびに味が深まるため多めに作り置きするのがルーマニア流)
料理の歴史と背景
サルマーレの起源はオスマン帝国の支配がバルカン半島一帯に及んでいた14〜19世紀に遡ります。「サルマ(sarma)」はトルコ語で「巻いたもの」を意味し、葉に具材を巻いて煮込む調理法はオスマン帝国の宮廷料理「ドルマ(dolma)」の系譜に属しています。ドルマはもともと葡萄の葉や野菜に米・ハーブ・ひき肉を詰めてオリーブオイルで煮込むものでしたが、オスマン帝国の影響圏が現在のルーマニア・モルドバ・ブルガリア・セルビア・クロアチアにまたがるバルカン半島全域に及ぶにつれて、地域ごとに固有の食材・保存食文化と結びついた独自の進化を遂げました。ルーマニアではオスマン帝国の料理技法が在来の豚肉文化・塩漬けキャベツの保存食文化・ルーマニア固有のハーブ(ディル・タイム)の使用と融合することで、オリジナルのドルマとは大きく異なるルーマニア固有のサルマーレが誕生したとされています。特に冬の保存食として各家庭で漬けられていた塩漬けキャベツを巻き葉として使う技法はルーマニアならではの工夫で、この発酵キャベツの酸みがサルマーレの味の核心をなしています。
現代のルーマニアにおいてサルマーレはクリスマス・復活祭・結婚式・洗礼式のいずれにも欠かさず登場する「祝宴の料理」として全国民に深く愛されており、ルーマニア人が自国料理を一品だけ挙げるとすれば必ずサルマーレが筆頭候補に上がると言われるほど強い文化的な位置づけを持っています。2021年にはルーマニアとモルドバが共同でユネスコ無形文化遺産への登録申請を行うべくサルマーレの文化的重要性の調査を進めるなど、国家レベルでの食文化の保護と継承が議論されています。ルーマニアでは農村部を中心にいまも各家庭が秋にキャベツを丸ごと塩漬けにしてサルマーレ用の葉を準備する慣習が受け継がれており、この塩漬けキャベツの準備から始まる一連の季節の営みがルーマニアの食文化の根幹をなしています。日本ではルーマニア料理は東欧料理の中でもまだなじみが薄いものの、キャベツの肉巻きという形態の親しみやすさと発酵食品への関心の高まりを背景にサルマーレへの注目が少しずつ集まっており、東欧料理イベントや輸入食材を扱う料理教室などでサルマーレが紹介される機会が増えています。
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