「レシピにパクチー、香りが苦手で……」「逆にパクチーが好きすぎて、もっとうまく使いこなしたい」——パクチーほど、好みが真っ二つに分かれるハーブも珍しい。石鹸のような香りと表現されることもあるあの風味は、東南アジア・中東・中南米の料理に欠かせない存在で、正しく使えば料理の印象を一変させる力を持つ。この記事では、パクチーの基本から部位別の使い方、苦手な人向けの代用品、保存方法まで、まとめて解説する。
パクチーとは

パクチーはセリ科の一年草で、学名をCoriandrum sativumという。タイ語で「パクチー(ผักชี)」と呼ばれるこの名称が日本で広く普及しているが、英語では「コリアンダー(Coriander)」または「シラントロ(Cilantro)」、中国語では「香菜(シャンツァイ)」、ベトナム語では「ザウムイ(Rau mùi)」、クメール語では「チィ(ជី)」と呼ばれる。世界で最も広く使われているハーブのひとつで、東南アジア・南アジア・中東・中南米の料理に欠かせない存在。
パクチーの特徴的な香り成分はアルデヒド類(デシルアルデヒド、ドデシルアルデヒドなど)で、これが「石鹸のような」「カメムシのような」と表現される独特の風味の正体。遺伝的な要因でこの香りを強く感じる人と、まったく気にならない人に分かれることが研究で示されており、苦手な人が意志の弱さでパクチーを嫌いなのではないことがわかっている。加熱すると香り成分が揮発して風味が和らぐため、生では苦手でも、炒め物やスープの具材として加熱すると食べられるという人も多い。
部位ごとの特徴と使い方
パクチーは葉・茎・根・種子まで、すべての部位を料理に活用できる。部位によって香りの強さと使い方が異なるため、それぞれを正しく理解しておくと料理の幅が広がる。
葉:仕上げ・トッピングに
パクチーで最も使われる部位が葉だ。香りが最も強く、フレッシュな風味が特徴。加熱に向かず、料理の仕上げやトッピングとして生のまま使うのが基本だ。スープの上に散らす、麺料理の上にのせる、サラダに混ぜるなど、料理の「顔」として最後に加える使い方が多い。
量は控えめでも十分存在感があるため、初めて使う場合は少量から試すとよい。加熱時間が長くなると香りが飛んで色も変わるため、火を止める直前またはテーブルに出す直前に加えるのがポイントだ。
茎:炒め物・スープの香り出しに
茎は葉より香りが穏やかで、加熱に向く。炒め物の最初に油と一緒に炒めて香りを出したり、スープや煮込みに加えて長時間香りを煮出したりと、「縁の下の香り出し」として使うのに適している。葉を使った後に余った茎を捨てずに活用できるため、食材を無駄にしない使い方としても覚えておきたい。
根:カレーペースト・煮込みに
パクチーの根は葉や茎より香りが濃厚で、土っぽいコクがある。タイ料理ではカレーペーストの材料として欠かせない存在で、すり鉢でニンニク・黒コショウとともに叩いてペーストの基礎を作る。日本で流通するパクチーには根が付いていないことも多いが、根付きのものが手に入ったら大切に使いたい部位だ。冷凍保存も可能で、凍ったままカレーペーストに加えることができる。
種子(コリアンダーシード):スパイスとして
パクチーの種子は乾燥させてスパイス「コリアンダーシード」として使われる。葉とは香りがまったく異なり、柑橘系のほのかな甘みとウッディな香りが特徴だ。シャワルマやカレーのスパイスミックスに含まれることが多く、葉のパクチーが苦手な人でもコリアンダーシードは問題なく使えることが多い。フライパンで乾煎りしてから挽くと香りが一層引き立つ。
「コリアンダー」と「パクチー」は同じ植物
レシピによって「コリアンダー」と書かれていたり「パクチー」と書かれていたりするが、同じ植物(Coriandrum sativum)を指す。ただしスパイスコーナーの「コリアンダー」はほとんどの場合、種子を粉砕したパウダーを指すため、葉のハーブと混同しないよう注意。
苦手な人向けの代用品
パクチーの独特な香りが苦手な場合、完全に同じ風味は再現できないが、料理の目的に応じて近い役割を果たす代替ハーブを使うことができる。
三つ葉で代用する
日本で最もパクチーの代わりに使いやすいハーブが三つ葉だ。セリ科同士で香りのベクトルが近く、清涼感のある草の香りが東南アジア料理のスープや麺のトッピングに馴染みやすい。使い方はパクチーと同様に仕上げや散らしとして使い、同量で置き換えられる。スーパーで手軽に手に入る点も魅力。
イタリアンパセリで代用する
イタリアンパセリはパクチーに比べて香りが穏やかで、色みも近い。見た目のトッピングとしての代替として有効で、料理の彩りを保ちながらパクチーの風味を抑えたい場合に使いやすい。ただし香りの方向性はパクチーとかなり異なるため、料理の印象は変わる。
ミントで代用する
ベトナム料理のようにパクチーと他のフレッシュハーブを組み合わせて使う場合、ミントをメインに据える方法もある。ゴイクンやブンチャーのようにハーブをたっぷり添えるスタイルでは、ミント・バジル・レタスなどでパクチーの分を補える。清涼感の方向性は異なるが、フレッシュハーブとしての役割は十分果たせる。
省略する
パクチーが仕上げのトッピングとして使われる場合、思い切って省略してしまうのも選択肢のひとつだ。スープや炒め物の主な味はパクチー以外の調味料で決まっていることが多く、パクチーを省いても料理として成立する。ただしカレーペーストの材料として使う場合は、他のハーブで代替するか省略すると風味に差が出るため注意が必要。
日本での入手方法
パクチーは近年、日本での流通が大幅に増えた食材のひとつ。
スーパーマーケットでは、野菜コーナーまたは輸入食品・エスニック食材コーナーにパックで置かれていることが多い。以前に比べて取り扱い店舗が増えており、都市部では一般的なスーパーでも入手できるケースが増えている。
カルディコーヒーファームではフレッシュパクチーのほか、冷凍パクチーや乾燥パクチーを扱う店舗がある。量り売りではなくパック販売のため、使い切れるかを考えて購入するとよい。
アジア系・タイ・ベトナム系の食材専門店では、根付きのパクチーが手に入ることがある。根付きはカレーペーストなどに使えるため、見かけたら入手しておく価値がある。
Amazonや楽天などのオンラインショップでは冷凍パクチーが安定して購入できる。まとめ買いして冷凍保存しておくと、必要なときに少量ずつ使えて便利。
保存方法
パクチーは水分が多く傷みやすいため、購入後の保存方法が重要。
冷蔵保存する場合は、根元を水に浸けてコップに立てるか、濡れたペーパータオルで包んでからポリ袋に入れて野菜室で保存する。1〜2週間程度鮮度を保てる。コップに立てる方法は香草類全般に有効で、バジルやミントにも応用できる。
長期保存には冷凍が最も有効だ。洗って水気をしっかり拭き取り、使いやすい大きさに切ってから冷凍用袋に平らに並べて冷凍する。凍ったままスープや炒め物に加えられるため、使い勝手もよい。冷凍で1ヶ月程度保存できる。ただし解凍すると葉がしんなりするため、フレッシュなトッピング用途には向かない。
大量に余った場合はペーストにして冷凍する方法もある。パクチー・ニンニク・塩・オリーブオイルをミキサーにかけてペースト状にし、製氷皿で凍らせてから保存袋に移す。炒め物やスープに加えると手軽にパクチーの香りを出せて便利。
パクチーを使ったレシピ一覧
タイ・ベトナム・カンボジア・ラオス・台湾・中東と、アジア全域から中東まで幅広い料理に登場する。
タイ料理

ヤムウンセン
- トムヤムクン|スープの仕上げに葉を散らして香りを添える
- トムカーガイ|ヤシ乳スープの上にパクチーをのせて仕上げる
- カオマンガイ|鶏の旨みを引き立てる付け合わせとして葉を添える
- ヤムウンセン|春雨サラダにパクチーを混ぜ込んでフレッシュな香りを加える
- ラープ|ひき肉サラダにパクチーがたっぷり入る
ベトナム料理

ミークアン
- バインミー|サンドイッチの具材のひとつとして生のパクチーを挟む
- ゴイクン|生春巻きにパクチーをミントやレタスと合わせて包む
- ブンチャー|つけダレとともにフレッシュハーブとして大量に添える
- バインセオ|パリパリのクレープに包むハーブとして使う
- ネムザン|揚げ春巻きに添えるフレッシュハーブとして欠かせない
- ミークアン|ベトナム中部の麺料理にたっぷりのハーブとともに添える
- バインカン|タピオカ麺のスープに仕上げとして散らす
- フーティウ|南ベトナムの麺料理に香りのアクセントとして添える
- バインダークア|カニを使った麺料理の仕上げにパクチーを散らす
- コムガー|鶏の炊き込みご飯にパクチーをのせて風味を加える
- バインクオン|蒸し米粉ロールに添えるハーブとして使う
- カインチュア|甘酸っぱい魚のスープの仕上げにパクチーを散らす
カンボジア料理

ノムパン
- ノムパン|カンボジア式サンドイッチに生のパクチーをたっぷり挟む
- クイティウ|カンボジアの米麺スープの定番トッピング
- チャークダオ|炒め物の仕上げにパクチーを散らす
- サムローマチュー|酸辣スープの香りをパクチーが引き締める
- バイモアン|鶏の炊き込みご飯に添えるハーブとして使う
- トレイチャアムプルー|魚料理の仕上げにパクチーの葉を添える
ラオス料理

ジョーク
- ピンシン|炭火焼きエビに添えるハーブとしてパクチーを使う
- ジョーク|ラオス式お粥の仕上げトッピングとして散らす
- ケーンノーマイ|タケノコの煮込みの仕上げにパクチーを加える
- ナムカオ|揚げご飯サラダにパクチーを混ぜ込む
- カオプン|カレースープ麺に添えるフレッシュハーブとして使う
- ピンガイ|炭火焼き鶏のつけダレやトッピングとして添える
台湾料理

オアチェン
中東料理

イスラエルサラダ
- イスラエルサラダ|刻んだパクチーをトマト・きゅうりと合わせてフレッシュなサラダに仕上げる